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不動さんと物件めぐり  作者: 雲条 翔
第二家・全自動のハイテクハウスの罠
7/10

第7話 モニターで室内旅行

 

「私が部屋に入りたくない理由は、体重のことだけじゃなくて!」


「はいはい。言い訳はいいですから。話題変えましょ。ね。この部屋、窓も家具もないですけど、それもこの、デバイス様で操作するんでしょ? 教えてくださいよ」


「……デバイスに、窓を開けて、と呼びかけてください」


 俺は左手首に口を近づけた。


「窓を開けてください!」


 さすがに学習したので、声も大きめに、そして敬語。


 すると、壁の一部のディスプレイがウィーンガシャンと音を立てて稼動し、観音開きのように左右に展開すると、南側の壁のほとんどが、窓になった。


 窓の外には、芝生が広がり、庭石があり、木々には小鳥がとまって、さえずり……。


「あれ、こんな広い庭、外から見た時にあったっけ?」


「窓の外の光景。これもモニターに映し出された映像のひとつです。騙されましたね」


 ふふっと笑う不動さん。


 壁を構成しているのは、黒い縁が極限まで減らされ、見える部分は角の先まですべて映像を表示する業務用ディスプレイだった。

 あー、こういうの、アーティストのライブで見たことある。いくつものテレビをつなげて、大きなテレビ画面になってる、みたいなイメージだ。


 だから、「稼動して左右に開く」映像を見せられて、それがあたかも「本当に窓が開いた」かのように錯覚してしまったわけだ。


 手で触ってみると分かる。ただの画面であり、それは窓ガラスではなかった。

 それにしても、音響効果はリアルだな。

 本当に、間近で鳥がさえずっているみたいだ。


「今は、プロジェクションマッピングでも鮮明な映像が流れたりしますし。高精度ディスプレイと、立体音響装置で、見事に錯覚してしまうんです。外の映像だけじゃなくて、テレビもすごいんですよ。デバイスさんに話しかけてください」


 いつの間にか「デバイスさん」って、「さん」付けで呼んでますよ、不動さん。


「もしもし! テレビが見たいんですがお願いします!」


 すると、さっきの「芝生が広がり、庭石がある」窓の光景が、一瞬にしてテレビ映像に切り替わった。


 壁一面がテレビの大画面である。

 百インチ以上になるのか? 

 まるで映画館のスクリーンのような迫力。


 たまたま、この時は、平日昼間の情報バラエティを放送していた。

 スーツ姿の司会の男が、スタジオで立ってコメントしていたが、その「テレビの中の人物」の全身像が、俺よりも一回り大きいくらいなのである。


「これで映画とか見たいっすね……」


 俺が感嘆の吐息を漏らしていると、不動さんは「ふふっ、もっとすごいのをお見せしますよ。ビジョン・システム、プログラムナンバー、ワン・ツー・ワンってデバイスさんに言ってもらえますか?」と子供のような笑顔で言う。


 俺がその通りに言うと……。


 壁一面がテレビ画面、どころではない。


 天井の画面には雲一つ無い青空に太陽が輝き、床の画面……足下は白い砂浜。

 四方向の壁……周囲はヤシの木に、ビーチマット、そして青い水平線。

 海鳥が飛び、鳴く声と、打ち寄せる波の音が響く。


 まるで海に来ているようだった。

 潮の香りはさすがに無いが、それでもおそるべき再現技術。

 

「部屋全体のディスプレイが連携して、ひとつの世界を作り出せるのです。すごいでしょ? プログラムによっては、海の中とか、世界遺跡や観光名所もあったりして、部屋から一歩も出ずに旅行気分が楽しめるんです。デバイスさんのチュートリアルで、詳しいプログラムを教わってください。どれも楽しいものばかりですよ」


「面白そうだな……ところで、普段はどうすればいいんです? ソファもテーブルも、ベッドもない」


「またデバイスさんに」


「デバイスさん! ソファでくつろぎたいんですけど!」


 俺も自然な流れで「デバイスさん」と呼んでいた。

 AI相手なのに、「さん」をつけることに抵抗がなくなっている。


 床の一部が開き、部屋の中央にテーブル、それに沿うようにソファベッドが出現した。


「なんでもありだな……」


 俺は、ソファベッドに腰を下ろす。ふかふかだ。


「普段、人がいない時は、家具は床下に収納されます。収納時には、紫外線照射によるダニや雑菌の殺菌、消臭剤噴霧でニオイ消し、定期的なカバー交換のサービスもオートでやってくれるので、ベッドや枕は常に清潔な状態が保たれます」


 しかし、まだ部屋全体には海辺の映像が流れたまま。

 寄せては返す波、そんな砂浜のど真ん中に、ベッドとテーブルをぽんと放置しているみたいで、シュールだった。


「水回りは?」


「またデバイスさんに」


「このウェアラブルデバイスがあれば何でもできるけど、裏を返せば、なかったら何もできないってことだよな……。デバイスさーん! トイレやシャワーはどうすんの!?」


 壁の一部の画面が動き、横にスライドすると、その向こうには通常の住居で見られるようなトイレ・バスのユニットがあった。

 隣にはドラム式の洗濯機まで完備だ。


「キッチンはどこですか? あ、不動さん言わなくていいです、またデバイスさんに聞きます。デバイスさん! キッチンはどこですか!」


 別の壁の一部が開いて、システムキッチンが姿を現す……と予想していたが、何も起こらなかった。


「デバイスさーん! 聞こえてますかー!」


「木芽さん。キッチンは無いんですよ」


「なーんだ、先に言ってくださいよ、キッチンは無いんですか……えっ? 無いの!?」



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