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不動さんと物件めぐり  作者: 雲条 翔
第二家・全自動のハイテクハウスの罠
5/10

第5話 ただいまと言うと開くドア

「徒歩5分って、400mのことなんですよ。実際に歩いて時間を測ってるんじゃなくて、時間と距離が決まってるんです」


「ってことは、1分で80mか……結構、早歩きだな」


 職業柄なのか、車を運転しながら、不動さんはそんな雑学を話してきた。


 助手席の俺は、軽く相槌を返す。


 フルネームは知らないが、快活に笑顔で語る不動さんは、女子アナを思わせる二十代半ばの女性。


 これまでの流れで見当がつくと思うが、不動さんは『不動不動産』という不動産屋の職員である。

 一行のうちに四回も不動って出てきちゃったぞ。


 三流私大のボンクラな大学生の俺は、住んでいたアパートでボヤ騒ぎがあり、新しい住居を早急に探す必要に迫られていた。

 不動さんの案内で、物件を見に行く途中なのだった。


 ちなみに、優柔不断であちこち見て回っている、俺の名前は木芽兼照きめ かねてるという。


 ハンドルを握っていた不動さんが、ちょっと渋い顔をしながら「あと5分くらいで着きますけど……ホントに行きます?」とこちらを見てくる。


「あと5分のところまで来て、引き返す選択肢はないでしょ。行きましょうよ」


「さっき少し説明しましたけど、これから紹介する部屋は、様々な工夫を凝らした新システムの試作段階で、オーナーはいろんな人に住んでもらって、モニターとして感想が欲しいそうですよ……はあ」


「だから俺も泊まる気でいるんですけど……どうしたんです? ため息なんかついて。何かイヤな理由でも?」


「オーナーというか、部屋のシステムを作った開発者……私の……知り合いなんですよ」


 ◆


 住宅地の中に突然出現した、真っ黒な家。


 ルービックキューブを全面「黒」にしたみたいな外観の建物だ。


「マンションでも、アパートでもなく、一軒家なんですね。モデルハウスっていうか」


「中身はワンルームマンションみたいなものです。これ、つけてください。この部屋では必須のウェアラブルデバイスです」


 不動さんは、玄関の前で、俺に腕時計みたいなバンドを渡してきた。


 言われるがままに、俺はそのデバイスを左手の手首につける。

 重厚感はなく、プラスチックっぽくつるんとしていて、オモチャみたいに軽い。


「そのデバイスに自己紹介してみてください」


「え、腕時計に喋るんですか? あ、えーと、木芽兼照です、ハタチです」


「きめ・かねてる、さん。音声入力の登録を確認しました。これからは、あなたがオーナーです。どうぞよろしく」


 デバイスから合成音声が聞こえてきた。


「すげえ!」


「この家は、デバイスに音声入力することで、システムが機能する仕組みになっています。他の人の声では反応しません。オーナー登録をした人の声で動くんです。玄関でも、鍵代わりになってますので、喋ってみて下さい」


「え、なんて? 開けゴマ!とか?」


「玄関を開けるキーワードは、ただいま、です。ただいまと言えば開きます」


「なるほど、家に帰ってきた感じ、というわけか」


 俺は少し照れながら、デバイスをつけた手首を口元に近づけ、「た、ただいま……」と呟く。


「声が小さく、音声の本人確認ができません。もっと大きな声で、はっきりと発音して下さい」


 デバイスに怒られてしまった。


 よし、今度はもうちょっと大きな声で。


「ただいま!」


「声が小さく、音声の本人確認ができません。もっと大きな声で、はっきりと発音して下さい……」


「え、もっと?」


 俺は大きく深呼吸すると、怒鳴るような声で「ただいまっ!!」と叫んだ。


「おかえりなさい、木芽さま。近所迷惑なので、少し小さな声でお願いします」


 またデバイスに怒られてしまった。


「理不尽だ!」


「まあまあ木芽さん。ほら、玄関が開きましたよ」


 自動ドアみたいな横スライドで、黒い扉がゆっくり開く。


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