第4話・意外な欠陥
「ぜえ、ぜえ……」
近所のコンビニに行って、カップラーメンやらおにぎりやら、ペットボトルの飲み物やらを買って、自室まで帰ってきただけで、額に汗が滲み、息が切れる。
長い石段を登り、開けにくい手動ドアをこじ開け、なんで自分の部屋に辿り着くだけで、こんなに疲労困憊になるんだ……。
「ここに住んだら、これが毎日なのかよ……」
でもまあ、プラスに考えれば、運動部の合宿みたいなものか。
強制的に体を動かすような環境に身を置けば、自然と鍛えられていく。
スポーツ系のサークルに入っているわけでもなく、普段から運動不足気味な俺としては、改善するチャンスなのかもしれない。
オーナーのようなガチムチのマッチョにまでなりたいとは思わないが、ボクサーみたいに身が引き締まった細マッチョになったら、少しは今よりモテるようになるのかも……。
そんなことを考えながら、コンビニ袋を持ってハシゴを地下四階まで降りる。
キッチンのコンロにヤカンをかけて湯を沸かし、カップラーメンを食べようとしたのだが。
うっかりこぼし、両手に熱々のお湯がかかってしまった。
あちちっ、と軽く悲鳴を上げながら、すぐに水道の水で冷やす。
それほど広い面積をヤケドしたわけではないが、指や手のひらにかかってしまったせいで、じんじんと痛む。
ん? 両手の指や手のひら……?
俺は、キッチンからハシゴを眺め、見上げた。
この状況、やばいんじゃ……。
タオルを濡らして手に巻き付け、ハシゴに手をかけてみる。
「くっ……」
ちょうど、ハシゴを持つ時に触れる手の部分にヤケドをしてしまったようだ。
手が痛くて、ハシゴを掴めない。
これじゃ、登れないじゃないか!
ケガした時のことを、まったく考慮していない設計だな!
◆
「メゾン・ド・マッチョの中で、別の部屋を準備しました」
ヤケドしたあと、一番被害の少なかった小指を使って、スマホで不動さんに連絡した俺は、取り急ぎ部屋を変えてもらうことにした。
あのあと、オーナーがロープを使って俺を軽々と引き上げてくれて、なんとかなったが、あの状況でスマホが壊れたりした日には、俺はヤケドが完治するまでキッチンから動けなくなっていただろう。
「メゾン・ド・マッチョも、同じ作りの部屋ばかりじゃないんですよ。次の部屋は、ハシゴで地下に降りたりする構造にはなっていませんので」
「そうだと助かります」
「ヤケド、大丈夫ですか?」
「まだヒリヒリします」
さっき不動さんが手当してくれたお陰で、俺の両手には包帯が巻かれていた。
「オーナーからお見舞いとして、プロテイン一年分が届いています」
「いらんと伝えて!」
「さ、着きました。この部屋ですね」
話しながら二人で廊下を歩いていると、不動さんの足が止まった。
ドアを開けると、フローリングの六畳間が広がっていた。
もちろん、家具の類は一切ない。
その代わり、天井には一畳分の穴が空いており、壁にはゴツゴツとした人工的な岩が設置されている……。
「ハシゴではなくボルダリングで登る形式の、上に伸びた六層構造です」
「わかってないな!」
◆ ◆
俺は『メゾン・ド・マッチョ』の「一晩宿泊サービス」を断り、その日はネットカフェのナイトパックを利用した。