魔王討伐隊
急にローンチの攻撃の威力が落ちた。
そして僕の着ている鎧が重くなる。
この感覚…ゾンビと戦った時と同じ。筋力低下のデバフだ。
「それならっ!」
僕は筋力アップのスキルでデバフを打ち消す。
ローンチの足を跳ね除ける。彼がよろけた所で、僕は立ち上がり木刀を構えた。
「ローンチ! デバフだ!」
兵士長の叫びで、ローンチは状況を呑み込んだ。
そして木刀を構え直して突っ込んでくる。
筋力は逆転したけど、速さはまだ彼の方が上。
その体重と速さがあれば、この突進は十分な威力を持つ。
再度『アジャイル』スキルで敏捷性を上げる。
もっとギリギリまで引き付けろ。
避けたあとの体勢を想像しろ。
落ち着け、猪と一緒だ。
「今っ!」
ローンチの突きをギリギリで躱す。
そこで筋力アップのスキル。
僕は薪割りの要領で、彼の背中に木刀を打ち付けた。
「す、すまねぇ。ま、負けちまった。」
「いや、突然のデバフに混乱したのは仕方ない。」
ローンチは兵士長に謝り、兵士長はそんな彼をなだめる。
「魔王のデバフはもっと強力じゃよ。あの程度に対応できんでどうする。」
エイアールは、にひひと笑う。
兵士長は僕に向かって言った。
「クラウド、恐れ入った。ローンチは魔王討伐隊の一人だ。彼に勝ってしまうとは…、確かにキミの体質はデバフに有利なようだ。」
褒められた…のか?
兵士長は咳ばらいを挟む。
「だが、今回の勝利を決して鼻にかけることのないように。通常であればキミは一般人以下だ。しっかり訓練に精進して欲しい。」
調子に乗るなよと釘を刺された。
本当は、僕を役立たずに仕立て上げようとしていたことを謝って欲しい。
でも、それをぐっと我慢して返事する。
「はい!」
エイアールの期待に応えられたから十分だ。
「こいつを魔王討伐隊に入れることに異論はなくなったじゃろ?」
「そ…、そうですね。いえ、もともと異論はございません。」
兵士長の考えはエイアールに見透かされていたらしい。
「魔王討伐隊のメンバーを紹介しよう。リスケ、こっちへ。」
兵士長は観客席の奥に座っていた兵士を呼んだ。
ひょろっとした細身の兵士が前に進み出てくる。
「リスケっす。ども。」
「このリスケは稀有な回復スキル持ちだ。そして、前回の魔王討伐軍の唯一の生き残りでもある。」
あの惨状を目の当たりにした人!?
もう一度魔王と戦おうだなんて、どんだけメンタル強い人なんだ。
兵士長が僕に言う。
「この二人にキミとエイアール様を入れた四人が魔王討伐隊だ。」
まさか。たった四人で魔王を倒せというんですか!?