試験という名の公開処刑
こうやって相対すると、ローンチは巨大だ。
僕と父さんを襲ったゾンビより大きい。
「か、構えろ。」
人と戦うなんて、学校での武術訓練以来だ。
しかも相手は現役の屈強な兵士。
ゾンビは武器を持っていなかった。でも、ローンチは木刀を持っている。
勝てるわけない。
試験とは言っていたが、僕が役に立たないことをエイアールに見せつけるための公開処刑だ。
でも、僕はエイアールの期待に応えたい。
徹夜してまで僕の体質を調べてくれたエイアールに報いたい。
父さんも期待している。ダメだっただなんて言えない。
「お願いします!」
僕は意を決して木刀を構え、敏捷性アップのスキル『アジャイル』を発動する。
ローンチの体格からして、そんなに速くないだろう。
攻撃を避けていれば、隙ができるかもしれない。
ズシャ!
素早い木刀の一撃が、足元の床をえぐる。
ローンチはスピードアップのスキルを使っている。
しかも一撃が重い。筋力アップのスキルも発動している。
敏捷性を上げていたのに、僕の右肘の防具は弾き飛んだ。
「くっ!」
そう簡単なことではなかった。
背後に回り込もうとしても、ローンチもすぐに対応する。
今度は横なぎ。僕は腰をぐっと落とす。
頭上をブォンという風切り音が走り抜けていく。
当たったら、死ぬんじゃないか。
皮の鎧が酷く脆弱なものに感じる。
ゾンビは倒せても、同じ戦い方ができる相手じゃない。
横なぎでローンチの懐が開いた。僕はそこに飛び込み、防具のない脚に一撃を打ち込む。
躊躇していたらこっちがやられる。
ペシ
スネを狙ったのに、びくともしない。太い大木のようだ。
耐久アップのバフも掛かっている。
強い。
バフを重ね掛けできると言う事は、こういう事なのだ。
「ふんぬ!」
ローンチは左手で僕の肩を押し出した。
押されただけなのに、ぶん殴られたような勢い。
僕は体勢を崩して倒れ込んだ。
ローンチはそれを見逃さない。倒れた僕に足を乗せ、逃げられなくする。
「わ、悪く思うな。」
僕は腕で頭を守り、防御アップのスキルを使う。
そこへ容赦なく木刀を打ち下ろすローンチ。
鎧の上からの攻撃なのに、衝撃が凄い。
痛い。
痛い。
痛い。
僕はサンドバックのようだ。
兵士長はそれを見て、隣にいるエイアールに言う。
「最初は善戦しましたが、惜しかったですね。これでバフを重ね掛けできれば精鋭と呼べる兵士に育ったかもしれないが、本当に残念です。」
「でも、魔王と戦うのじゃから、デバフを考慮せんとな。」
そう言って、エイアールは武道館全体にデバフのスキルを発動した。