期待されていなかった僕
翌朝、僕はエイアールのベッドで目を覚ました。
もちろん一人で寝ていた。
エイアールはあの後、ほぼ徹夜で文献を調べていたらしく、書物の中で眠っていた。
僕はエイアールを起こさないように、そっと抱えてベッドの上に移す。
初めての場所なのにぐっすりと眠ってしまった。
一晩のうちに色々とありすぎて気疲れしていたからに違いない。
コンコンコン
その時、体の大きな兵士が迎えに来た。
彼はローンチと名乗った。
ローンチに連れられて朝食をとり、入隊の手続きを受ける。
この手続きに意外と時間がかかった。
身体検査などを含めて、結局終わったのはお昼すぎ。
その後、兵士長の執務室に通された。
兵士長はタバコをふかしながら僕を見つめる。
「手続きは問題なかったか?」
「はい。」
「そうか、バフを重ね掛けできないことは説明したかな?」
「はい、もちろんです。」
だから僕が切り札なんだとエイアールが言っていた。
「魔王との戦いの敗北で兵士がかなり減ってしまってね。例えどんな兵でも増えてくれることはありがたい。」
どんな兵でも? その言い方が気になった。
「昨夜はエイアール様を立てたが、デバフが消せるというのがそんなに重要なのか。バフが一つしか使えないデメリットの方が大きいのではないか……そう思っている。」
そうか、やっぱり。
兵士長は勇者だのなんて言っていたけど、単に兵士の補充のために煽てていただけか。
「正直、魔王の討伐隊にキミを連れて行くのは難しいと考えている。だが、エイアール様のご期待を裏切る訳にもいかない。とりあえず、邪魔にならないようにはして欲しい。」
兵士長の言葉に僕は悔しくて、情けなくなった。
父さんがあんなに喜んでくれたのに。
「キミの実力を見たい。ローンチ、ちょっと試験してやってくれるか?」
「わ、私がですか?」
突然呼ばれたローンチは驚いて目を見張る。
「そうだが。何か問題でも?」
「い、いえ。し、新兵の試験と、き、基礎訓練は教育科が…」
「エイアール様に現実を見てもらわないとならん。」
「そ、そういうことですか。わ、わかりました。」
早速、ローンチは僕を引き連れれて、武道館へとやってきた。
館内の更衣室へ通される。
「こ、これを着ろ。」
軽装の皮の鎧と兜、そして木刀を渡された。
僕が準備をして道場へ出ると、ローンチは急所を守る防具だけを身に着けて待っていた。
観客席には兵士長。その横に、まだ眠そうにしているエイアールが座っていた。
「では、キミの実力を見させてもらうぞ。」
兵士長の合図で試合が始まる。
人物紹介「ローンチ」
魔王討伐隊の一人。人一倍体が大きく、耐久力に自信がある防御盾役。
大の子供好きで、休みの日には孤児院の手伝いをしている。子供たちからはクマさんと呼ばれている。