魔王と大軍で戦えない理由
父さんが支度をしてくれて、僕はその夜のうちに出発した。
エイアールの移動のスキルで、あっという間に王宮に到着。
王宮には僕が見たことないような大きな建物が並んでいた。夜遅いのに王宮の外も賑やかで、ついキョロキョロとしてしまう。
そんな僕を見て、兵士長が笑う。
「王宮は初めてか?」
「はい。こんな人が多い所に来たことないです。」
「じきに慣れる。」
そして、エイアールの研究室に案内された。
ここで兵士長から説明を受ける。
「我が王国が魔王の攻撃を受けていることくらい知っているな。」
「はい。ゾンビを操って、各地を襲っていると聞いています。」
兵士長は頷く。
「ゾンビは死体だ。バフもデバフも効かない。だから範囲デバフのスキルを使われると、兵士だけがデバフを受けることになる。残念ながら苦戦することも多い。」
つまり、負け戦が何回もあると言う事。
あんな強力なデバフ。勝てなくても仕方ないと思う。
「だが、我々も手をこまぬいていたわけではない。先般、魔王に奇襲攻撃を仕掛けた。完全に魔王の虚を衝いたが、魔王一人に惨敗した。全滅だ。」
さっきは明言を避けたのに、今回は完全に負けを認めた。
「兵士は魔王のデバフを何発も喰らい力を失った。更に幻惑のスキルを受け、同士討ちを始めてしまった。本来、幻惑など物ともしない精神力を持つ兵士たちだが、強力なデバフの効果に屈したのだ。」
兵士長は溜息を吐いた。
「そして、力尽きた兵士を魔王はゾンビに変え、残った兵士を襲わせた。」
「うわぁ…」
僕は思わず声を出してしまった。
無慈悲な。魔王はなんて酷い奴なんだ。
「大軍での攻撃を諦め、魔王には数人の精鋭だけで挑むことにした。これは、エイアール様のご助言もあってのことだ。」
「それにお主も参加するのじゃ。」
エイアールが頷く。
「僕に出来るでしょうか。」
「やってもらわねば困る。これ以上、魔王の跋扈を許すわけにはいかない! キミには期待しているぞ。勇者殿。」
兵士長に勇者と呼ばれるたびに居心地が悪い。
「説明は以上。入隊の手続きは明朝だ。キミの部屋に案内しよう。」
兵士長が僕をつれて行こうとすると、エイアールが呼び止めた。
「待てクラウド。今晩はこの部屋に泊まれ。」
「は? しかし…」
「こいつの体質を調べたいんじゃ。一晩くらい構わんじゃろう。」
「エイアール様。彼も疲れています。」
「早く調べたいのう。」
「…分かりました。では明朝、迎えに来させます。」
兵士長は出て行き、僕はエイアールと二人きり。
僕、何されるんですか!?