僕が勇者ですか!?
白いローブの少女は賢者エイアール。
王国最強の賢者で、この見た目なのに町の長老よりも年上らしい。
…どう見ても子供にしか見えない。
「賢者様、魔王討伐ってどういうことですかっ?」
父さんが驚いた様子でエイアールに聞く。
「そのままの意味じゃ。こいつは切り札になる。」
「エイアール様。こんな森の中でそのような話をされても、彼らも困るでしょう。そうだ。キミたちの家にお邪魔してもいいかな。お礼はさせてもらう。」
兵士長がそう促すと、僕たちは王国の兵士たちに囲まれて家へと戻ってきた。
狭い家には兵士たちも入りきれず、何人かが外で待つ。
テーブルには僕と父さん、向かいに兵士長とエイアールが腰かける。
エイアールは落ち着いた様子で、僕の出したお茶をふぅふぅと冷ましている。
タバコの事をすっかり忘れていたけれど、父さんはもうタバコの事はどうでも良いみたいだ。
「クラウドが魔王討伐に役に立つんですか?」
父さんは、前のめりになって兵士長とエイアールに詰め寄る。
「そうじゃ。その体質があれば魔王を倒すことができる。」
エイアールの説明はそこで終わり、兵士長が補足する。
「先ほども見られたと思うが、魔王配下のゾンビたちの中には強力なデバフのスキルを持った者がいる。そのために今まで苦戦してきたのだが、デバフを打ち消しできてしまう、彼の能力…というか体質? それがあれば、優位に戦えることは間違いない。」
兵士長は魔王を倒せるとまでは明言しなかった。
エイアールはやっとお茶を飲み干した。
「お主、今から王宮へ来い。」
兵士長もそれに乗る。
「突然ゾンビに襲われたのに、怖気ずに向かっていく姿。そして、とどめの一撃の美しさ。あの活躍ぶりは勇者と言っても過言でない。是非とも、キミには我が軍を助けて欲しい。」
あれは、たまたま何とかなっただけ。僕に戦いなんて向いているわけない。
魔王討伐だなんて、僕はそんな大それたことができるような人間じゃない。
「でも…」
僕が断ろうとしたら、父さんが遮った。
「クラウドを必要としていただけるなら、どこへでも連れて行ってください。なあ、クラウド。」
父さんは僕にそう言って、目頭を押さえた。
確かに。こんな不利な体質を持った僕が必要とされるなんて、この先の人生で二度とないかもしれない。
そんな僕のことを、父さんは心配してくれている。
この人生を変えることができるかもしれない。
「わかりました。行きます。」
「おお、期待してますぞ、勇者殿。」
勇者……兵士長の言葉が重くのしかかる。