遺言
横たわる魔王の体の上に、ぼんやりとした光の球が浮かぶ。
「魔王は、まだ生きているんですか?」
僕の質問にエイアールは首を振る。
『幽体ドメイン』
それは高位の賢者だけに許された、死後に残すことができる精神体。
「いや……この状態ではヴィアールは何もできん。遺言は聞けるかのぅ。」
エイアールは僕を安心させると、光の球に語りかける。
「ヴィアール、もう終わりだ。」
「………」
光の球は応えるように揺らめく。
「そう、お前は間違ったんじゃ。やり方はもっとあったはず。のう、ヴィアール。」
「…… ……」
光の球は、緩やかに明滅する。
「ほう。クラウドのこと知っておるのか。そうか分かった。約束しよう。」
エイアールがそう告げると、光の球はゆっくりと消えていった。
「僕が…何か?」
エイアールに問いかけようとした時、ローンチとリスケが合流した。
「魔王はどうなったっす?」
「た、倒したのか!?」
二人はボロボロの体を引き摺って、魔王の胸に突き立った小剣を見つめる。
「ああ、終わった。」
エイアールの答えに、ローンチは雄叫びを上げ、リスケは号泣した。
彼らは、魔王を油断させるための最後の囮としての大役を果たした。傷付き、疲れた両手両足を大地投げ出し、大の字になって寝転んだ。
町の方からは、兵士や街の人たちの歓声が聞こえてきた。
全てのゾンビが消えたのだ。
「やった…。」
僕も張り詰めていた緊張が解ける。
突然、どっと疲れが出てきた。
興奮のために感じていなかった痛みが体中を駆け回りはじめ、体のあちこちが悲鳴を上げる。
立っていられなくなった僕は、二人の隣に寝転んだ。エイアールも座り込んだ。
大地の匂いが、草の香りが心地良い。
「あ、ありがとうクラウド。」
ローンチから感謝の言葉。
「クラウドのおかげっす。」
リスケからお礼の言葉。
「よくやってくれたのう、クラウド。」
エイアールから労いの言葉。
「みんなで頑張ったからです。」
僕は嬉しかった。みんなの期待に応えることができた。
自然と笑いがこみあげてくる。
みんな寝転がったまま、大声で笑った。
笑い終わると、リスケが呟く。
「クラウドは本当に勇者っす。」
あの時、リスケは戦うことを躊躇した。命令に従っていたら、きっと後悔したに違いない。だから、クラウドの勇気にしびれた。
「そ、そうだ、勇者だ。」
ローンチも同調する。エイアールも頷く。
そうか…僕は勇者になれたんだ。…役に立つことができた。
父さんもきっと喜んでくれる。
勝利を噛み締め、達成感ともに、ゆっくりと目を閉じた。




