絶望
魔王は、三人が一直線に並んだ所を狙った。完全な不意打ちだった。
ダメージの小さいローンチはすぐに立ち上がる。そして、下敷きにしてしまった仲間を庇い盾を構えた。
「だ、大丈夫か?」
リスケもよろめきながら体勢を整える。元々の防御力が低いリスケは、バフで強化されているにも関わらず大きなダメージを負ってしまった。
ローンチなら防いでくれるという信頼が、リスケの回避判断を鈍らせた。
「ぐっ…」
リスケは回復のスキルを自分に使う。…が、回復量が小さい。
きっと、魔王がデバフスキルを発動したのだろう。エイアールに回復量増加のバフを掛けてもらわなけらばならない。
「きゅ~」
リスケの足元で、エイアールは二人の下敷きとなったために気絶していた。
僕は思わずエイアールに駆け寄る。
「エイアール様を起こします。」
今の僕は隠密状態で、誰からも姿を見ることはできない。リスケには、僕の小声だけが聞こえている。
「クラウド?…どこっすか。」
「足元です。」
「分かったっす。エイアール様のこと頼んだっす。」
そう言ってリスケはローンチと共に魔王に向かって行った。
僕は焦った。
エイアールが魔王のデバフを相殺しなければ、二人に勝ち目はない。
彼女の顔に血の気はなく、鼻からは血が垂れている。
だが、胸に耳を当てると、心臓の音が聞こえる。
(エイアール様、しっかり!)
僕は声を殺して、エイアールを揺り起こす。僕は痛み止めや止血みたいな簡単なスキルしか持っていない。薬草に毛が生えた程度のスキルだが、何もしないよりはまし。僕は気休めと知りながらも、そんなスキルを発動して、彼女に呼び掛ける。
ローンチとリスケは、魔王を挟んで僕らの反対側で戦い始めた。また、吹き飛ばされてぶつかるのを避けるためだ。
魔王には、直接攻撃でダメージを与えるような腕力は無い。だから武器も持たず、スキルによる攻撃しかしてこない。魔王が何のスキルを発動したかをローンチがちゃんと見ていれば、避けることは容易い。
しかしデバフで、二人は力をどんどん削られていく。普通なら目を瞑っていても避けられる攻撃すら直撃してしまう。
もう時間がない。二人はもたない。
エイアールが目覚めれば、回復もバフも可能。戦えるようになるはずだ。
(起きてくださいっ!)
僕は祈るような気持ちでエイアールの頬を叩く。
その時だった。
僕は不穏な気配を感じて顔を上げる。僕たちの周りを大きく囲むように、ゾンビたちが立っていた。
「チェックメイトだねぇ。」
魔王が冷たく言葉を言い放つ。