ゾンビ襲来!
家では父さんが先に帰ってきていて、夕食の支度をしていた。
「おかえり。」
僕は父さんとの二人家族。
母さんは僕が生まれてすぐに死んでしまった。
「今晩は僕が当番なのに。」
「気にすんな。仕事が早く終わったんだ。」
父さんは腕利きの木こりだ。
バフのスキルが得意なため、仕事が正確で早いと評判だ。
夕食後、父さんは鞄の中を見て焦る。
「しまった。森にタバコを置いてきた。あれがないと一日が終わらん。」
父さんが斧を持って出掛ける。
「一緒に行くよ。一人よりは心強いでしょ。」
僕はランタンと護身用の小剣を手にしてついていく。
森では夜行性の猛獣に襲われることがある。
父さんなら返り討ちだろうが、万一の時、僕も助けを呼ぶくらいはできる。
父さんと歩くなんて久しぶりだ。
「今日の仕事はどうだった?」
「とても良い人だったよ。時間かかったけど、報酬に色を付けてくれたし。」
「良かったな。」
でも、それが惨めなんだ。
「なんで僕はこんな体質なの?」
「バフのことか。」
僕は頷く。
「お前は赤ん坊の頃から体が弱かった。」
父さんは足元を見ながら歩く。
「賢者様に見てもらっても、分からんと言われてな。」
賢者様のことは少しだけ覚えてる。
確か、『何これ、わっかんねぇ。生活に支障がないんなら大丈夫でしょ?』って言われた。
子供ながらに「何だこいつ」と思った。
ガサっ、ガサガサっ!
木立が揺れた。
父さんが身構え、筋力アップのスキルを使う。
僕はランタンを高く掲げて照らす。動物ならこれで逃げるはず。
「熊?……じゃない! ゾンビだ!」
父さんが叫ぶ。
それは大柄な男のゾンビ。魔王の『ネクロマンシー』のスキルで動く死体だ。
「何でこんなところに!?」
今まで、こんな辺境の町にゾンビが出たことなんてない。
ゾンビは僕たちを見つけるとスキルを使った。
「『パワーダウン』のスキル!? なんてデバフ量だ。」
僕らに筋力低下のデバフがかかる。
父さんは構えていた斧を落としてしまった。僕もランタンを両手で持つのがやっとだ。
「逃げるぞ!」
父さんは斧を諦めて走り出す。
さらにゾンビは速さを下げる『クロックダウン』のスキルを使った。
走ろうとしてもスピードが出ない。
父さんは下がった速さを取り戻そうとバフのスキルを使うが、デバフ量が大きすぎて、焼け石に水。
ゾンビが迫る。
筋力と素早さを奪われた父さんは、僕を庇おうとゾンビの前に立ちはだかった。
これじゃあ、二人とも殺される。
「あれ?」
ランタンの重さが普段通りに戻っているじゃないか。
そうか…もしかして。