今しかない!
リスケはもう一度、遠隔監視のスキルで魔王の様子を探る。
呼吸するお腹の動きなど、催眠スキルで眠らされた人と同じ。
……間違いない、寝ている。
「…確かにチャンスっぽいっす。けれど、罠の可能性もあるっす。前回の奇襲を受けて、魔王は対策をしてるはずっす。」
リスケの心配は尤もだ。
でも僕は引かない。
「それは、後でも今でも同じことです。僕たちは罠がある前提で訓練をしてきたんだから。」
訓練では、いろいろなパターンを試した。
落とし穴からトラバサミや地雷、もちろん伏兵も。
あらゆるデバフを受けても戦えるように準備をしてきた。
「そうっす。そうっす……けど!」
リスケはそれでも及び腰。
「今ならあの町が救えます!」
僕はゾンビに襲われて混乱する町を指さす。
リスケは町を見つめる。
かつての自分の仲間がゾンビとなって、町の人を襲っている。
「遠隔監視であの声が聞こえないんですか? 自分たちの生活を壊される苦しみや、仲間を倒さなければならない苦しみが!」
「いや、さすがに声までは聞こえないっす。」
リスケが否定し、エイアールが僕を見て驚く。
「お主。遠隔監視のスキルで声も聞こえるのか。」
「え? あ、はい。」
当たり前のことだと思っているけど。
「感覚強化のバフが乗っていないと、声までは聞こえないはずなんじゃが…。これもお主の体質と関係あるのかのぅ。」
そうだったのか…知らなかった。
やっぱり、自分の体質について、もっと知りたくなった。
でも。
「今はそんなことを言っている場合じゃないです。」
僕はさらに強い口調になる。
「魔王を倒すのは、今しかないと思います!」
その時、ローンチが盾を背負った。
「い、いつでもいけるぞ。」
ローンチはやる気に満ちた笑顔だった。
エイアールも笑いながら、賢者の杖を拾い上げる。
「その大胆な決断。お主は本当に勇者かもしれんのう。」
リスケは今から戦おうとする三人を見て、弱気なことを言う。
「あの、まだ心の準備が、まだなんで。今すぐってのは、さすがに…」
リスケは一度魔王と戦っている。
普段はあっけらかんとしているが、やはり魔王との戦いにはトラウマがある。
仲間同士で殺し合う光景が頭に焼き付いて離れない。
「お主とて、魔王と戦う覚悟はできておるのであろう?」
「もちろんっす。」
「では、問題あるまい?」
リスケは短剣を抜き、しばらくその剣身を見つめて鞘に戻す。
「分かったっす…。魔王を倒しに行きましょう!」
リスケは深い息を吐いて頷く。そして宣言した。
「作戦名は『ゼロデイ攻撃』っす。」