戦う者が守る物
大盾部隊の後ろに魔法部隊が構える。
「『アローダイアグラム』! 撃てっ!!」
浄化のスキルで生み出された矢がゾンビたちに向かって飛んでいく。
浄化の矢に射貫かれたゾンビは土へと還る。
僕らは高台から戦いを見守る。
「勝てそうですね。」
「ぞ、ゾンビとの戦い方を、ず、ずっと研究してきたからな。」
ローンチは、遠隔監視のスキルで戦場のあちこちを注意深く観察している。
「ま、まずは何としてもゾンビの数を減らす。そ、そこからが本当の戦いだ。」
まだ気を抜いてはいけないと言う事だ。
浄化のスキルは、賢者でもなければ発動までに時間を要する。この攻撃も長くは続けられない。
突然、浄化の矢が明後日の方向に飛びはじめた。
「命中低下のデバフだ。照準が定まらん!」
魔法部隊の兵士が焦る。
ゾンビが再び迫りくる。
「何としても押し返せ。」
「湖だ。湖に落とすんだっ。」
ゾンビを大盾で弾きながら、湖の方へ押し込む。
水に落ちたゾンビは湖底へと沈んでいく。
市民の義勇兵から悲鳴が上がる。
「湖が汚れるっ!」
「町の飲み水だぞ。」
「やめてくれ…やめてくれ…」
兵士が義勇兵に向かって叫ぶ。
「死んだら元も子もないっ。何としてもゾンビを倒す! 勝って生き残らなきゃならん。」
しかし、義勇兵は引き下がらない。
「勝っても、この町に住めなくなってしまったら一緒ではないですかっ!」
「軍の兵士は、よそ者だから平気なんだろ!」
義勇兵が王国軍を妨害しはじめた。
湖側の王国軍の隊列が乱れ、ゾンビに突破されそうになる。
その時、一人の小隊長が義勇兵の前に立ちはだかった。
あらん限りの声で自分の想いを届ける。
「仲間だった兵士もゾンビにされてしまったぞ。俺の双子の弟もな!!」
それを聞いた義勇兵たちは静まり返った。
「それでも、それでも俺たちはゾンビを倒す! これから生きていく人を守るためだぞ!!」
兵士たちも覚悟は同じ。義勇兵にもそれが伝わった。
仲間や家族がゾンビになって襲ってくる。彼らはそれに耐えて戦っている。
僕には無理かもしれない…。
「大丈夫じゃ。軍にお前の知り合いはおらんじゃろ。」
エイアールは、僕の不安を察してくれたらしい。
そうか。僕を魔王討伐隊に選んだのも、ゾンビの中に知っている人がいないという理由もあるんだ。
「や、やばい。お、押し切られる。」
ローンチが焦った声を出す。
一度崩れた陣形は、一人の兵士の魂の叫びだけでは取り戻せなった。
ゾンビに突破される。
「現実は非情。まさに魔王の思い通りじゃの。」
エイアールは悲しい顔をした。