一進一退
戦いは王国軍の優勢で進んでいる。
僕は戦いの様子を固唾を呑んで眺めていた。
リスケが声を殺して叫ぶ。
「魔王が居たっす! 湖のこちら側、森の北端の所っす。」
僕も慌てて、魔王の場所に目を移す。
どこだ?
…いた。
魔王はゾンビたちの後方に立ち、戦いの様子を見つめていた。
真っ黒なマントを羽織り、フードを深く被って顔を隠している。
聞いていたとおりの格好だが、思っていたより小柄だ。
「魔王は何をしているんですか?」
「スキルを使わせるタイミングを計っているっす。」
いつの間にか、ゾンビたちは五つの場所に集まっていた。
魔王が手を掲げる。
それぞれの場所の中心に立つゾンビが、スキルを発動した。
「あ、あれは『ウォーターフォール』。火が消えるぞ。」
ローンチのスキル『モニタリング』で、ゾンビたちの発動したスキルが分かる。
次の瞬間、ゾンビたちの頭上に水柱が現れ、注ぎ落ちる。あっという間に畑の炎を消し去った。
ゾンビは再び進軍を始める。
「今、スキルを使ったのが上級ゾンビっす。」
「数は多くないみたいですね。」
「いや。簡単なデバフスキルを使うやつは沢山居るっす。今は魔王が指示したけど、自分で判断してスキル使ってくる事もあるっす。」
「厄介な…。」
「ちなみに今一番東の塊でスキル使ったゾンビ…、元同僚っす。」
僕は何も言えなくなった。
リスケはさらりと言ったが、とても重たい話だ。
元の仲間だったゾンビと戦うなんて辛すぎる。
戦場では、ゾンビたちが一気に押し寄せて行く。
先ほどの水のせいで足元がぬかるみ、最前線の兵士は足を取られる。そこへゾンビは容赦ない攻撃を仕掛ける。
ゾンビは自分が傷付くことを恐れない。
痛みを感じないから、怯むことなく全力で攻撃できる。腕や脚がなくなっても構わず攻撃する。
そこに、生きている兵士と戦い方の違いがある。
「ゾンビは、炎で焼くか浄化のスキルで肉体そのものを消すしかないっす。」
僕はリスケに質問する。
「ゾンビの首を斬り落としたら、動かなりましたが。」
「首を切れば体は動かなくなるっすが、頭の方はスキルを使ってくるっす。」
知らなかった。
だから、あの時アイアールはすぐにゾンビを浄化したんだ。
ドン!ドン!ドン!
王国軍の後方から太鼓の合図が響く。
今まで戦っていた兵士が下がり、入れ替わるように大きな盾を持った兵士たちが最前列に並ぶ。
「総員、『アクティブディフェンス』発動ぅ! 押し戻せぇ!」
スキルの効果で、ゾンビは盾に弾かれるように後ずさる。
ゾンビたちの足並みが崩れていく。