穀倉地帯の戦い
同日正午・インタプリタ周辺
インタプリタは、大きな湖に臨む穀倉地帯にある。
大軍同士が戦いやすい平原だ。
王国側
王国軍兵士 二百余名
市民義勇兵 四十三名
対する魔王
ゾンビ 八百体以上
整然と隊列を組む王国軍の兵士。
少し後方に義勇兵が丸く固まっていた。
魔王は圧倒的な戦力を揃えてきたが、ゾンビたちはバラバラにたむろっているだけ。
およそ統率とは掛け離れた並びだ。
「この戦いは観戦に徹するんだ。魔王の動きを観察して対策を練る。今回はこれが魔王討伐隊のミッションとなる。」
これが、兵士長の指示だ。
僕たち魔王討伐隊四人は、少し離れた高台に潜んでいた。
今は、ローンチが遠隔監視のスキルで戦況を見守っている。
僕はリスケからゾンビ講座を受けていた。
「ゾンビって、スキルが使える上級ゾンビと、使えない下級ゾンビがいるっす。」
僕は、対魔王の訓練しかしていないため、ゾンビについての知識が少ない。
ここで、実戦を観ながら勉強をする。
「上級ゾンビの中でもデバフスキルを使うやつ。こいつが一番厄介っす。」
僕が初めて戦ったゾンビだ。あれは上級ゾンビだったのか。
「は、始まったっ!」
ローンチの声を聴いて、全員が遠隔監視のスキルを発動する。
兵士たちの鬨の声がここまで響いてきた。
一面の畑が、戦場へと変わる。
ズドドドドド
ゾンビたちは、黄金色に染まり始めた穀物を蹂躙して一斉に攻め込む。
「一気に行くぞ。『ファイアウォール』!!」
小隊長の一人が攻撃のスキルを発動する。
炎の壁がせり上がり、ゾンビめがけて広がっていく。
ゾンビは、その肉体を炎で燃やせば存在できなくなる。
「ここならよく燃える。ゾンビ共も一網打尽だぞ。」
小隊長が叫ぶと、各部隊から同じスキルを使って火の手が上がり、炎の壁は穀物をなめるように広がっていく。
義勇兵たちは、それを辛そうに眺める。
「また、種は植えれば良い…」
多くのゾンビが炎から逃げるように動く。
しかし、一体のゾンビが炎を突き抜けて来た。そのまま最前線の兵士に襲いかかる。
「なぜ、あのゾンビには炎が効かぬ?」
老兵士が小隊長に聞く。小隊長は歯を食いしばって答えた。
「あのゾンビは、魔王討伐で死んだ俺の双子の弟だぞ。」
「……双子には、お互いのスキルが効かぬからか。」
小隊長が頷く。
「貴殿のスキルで、燃やしてくれ。」
「浄化スキル持ちを呼ぶか?」
「これ以上あいつに仲間を襲わせたくないぞ。一刻も早く終わらせてやってくれ。」
「……。」
老兵士は無言でスキルを発動する。
炎の壁がそのゾンビを焼いた。