訓練、訓練、訓練
僕たち魔王討伐隊は、さっそく訓練を開始した。
体を鍛えるだけではない。
あらゆる状況を想定した戦いに対応するため、四人が隊列を組んで、互いの連携を高めていく。
「ふんぬっ!」
ローンチは先頭に立ち、斧を振り回し、その巨体で魔王の攻撃を受け止める。
彼はただの盾役というわけではない。
彼の持つスキル『モニタリング』は、相手がスキルを発動する瞬間を見ることができれば、発動されたスキルが何かを知ることができる。
一番近い所で魔王を監視し、どんなスキルが襲いかかるのかを仲間に報せるのだ。
「遅いっす!」
リスケは回復を担う、隊の生命線。
盾役のローンチはもちろん、みんなが傷ついた時にすぐさま回復のスキルを発動する。
もう一つ。リスケの役割は戦いの指示役でもある。
前回の魔王戦で、魔王の戦い方を見て覚えている。
リスケはその観察力があったからこそ、軍が全滅した戦いから生きて帰ることができたのだ。
「そんな事では、魔王に勝てぬぞ。」
賢者エイアールは、この訓練では魔王役をしている。
戦闘での彼女の役割は、後方からスキルによる支援を行うこと。
賢者の持つ強力なバフや攻撃のスキルを使って、全員をサポートする。
「まだ行けます!」
僕は魔王にとどめを刺す攻撃役。
魔王がどんなデバフを掛けてこようが、僕はいつも通りに戦うことができる。
僕はデバフを打ち消し、隙を狙って魔王の懐に潜りこむ。
そして、その体に小剣を突き立てる!
バキッ!
エイアールの隣に立っていた、魔王を模した大きな藁人形が倒れる。
「お、お見事。」
ローンチもリスケも、僕を素人と馬鹿にすることなく真摯に訓練に協力してくれる。
僕は人形から小剣を引き抜いた。
父さんからもらった小剣だ。昔から使っていて一番慣れているから、この剣で戦うことにした。
「ローンチは、もう少しデバフに慣れないとダメっす。」
「す、すまん。」
ローンチがリスケに怒られるが、デバフに慣れている人なんていない。
日常生活でデバフを使うことはない。戦いの中でも、個別デバフを受ける事は滅多にない。すぐに避けられるからだ。
範囲デバフから逃げることは出来ないが、味方も巻き込むことになるため誰も使わない。
ゾンビにはバフもデバフも効かない。
そんなゾンビが範囲デバフを使ってくるから、一方的に兵士だけがデバフを受ける。だから、各地で苦戦しているのだ。
「魔王もかなり強力なデバフを使ってくるっす。」
エイアールはポツリと呟いた。
「もともとバフやデバフを研究していた賢者だったからのう。」