第九話 告白
ツヨシの言葉に頷くと、
「もちろん構わないよ。おまえも何か食べれば?」
「じゃあ、チーズケーキをもらってきます」
言うなりレジ近くのショーウィンドーに行き、ケーキを持ち出し戻ってきた。制服姿のまま、オレの正面に座る。軽く手を合わせてから食べ始めた。そこでようやく、自分も食べなければ、と気が付いた。
しばらくはお互い黙り合って食べていたが、
「光国。どうして、ここに来てくれたんですか」
「わかんないんだよ。気が付いたらここに来てた」
正直に言った。ツヨシはオレをじっと見て、「何か話したいことがありますか」と、静かな声で言った。ツヨシの問いに頷くと、オレは大きく息を吐き出し、フォークを皿に置いた。
「もう、どうしていいかわからなくて」
自分でびっくりするくらい、弱々しい声だった。ツヨシは、そこには触れず、質問を続けた。
「昨日、何があったんですか」
「あの小学生を好きになった」
オレの発言に、ツヨシは何も言わず、ただオレを見ていた。その表情からは、この件についてどう思っているのか、判断するのが難しかった。オレは、溜息を吐き出すと、
「オレ、おかしいんだと思う。彼女はまだ十歳の小学生なんだよ。ちゃんとわかってるんだ。それなのにオレは、あの子が本当に愛しいなんて思っちゃってるんだ」
ハーブティーを一口飲んでから、続けた。
「やめろって自分に何度も言ったんだけど、無駄だった。全然この気持ちは消えてくれないんだ」
ツヨシは、相変わらず黙ってオレを見ている。
「確かにさ、見た目も可愛い子なんだよ。黒い髪が腰くらいまでの長さで、前髪は眉の上で切り揃えられていて、目がぱっちり。何て言うか……人形っぽい? でもさ、違うんだよ。オレはそこに反応したんじゃなくて……」
「違うんですね」
ツヨシが、ようやく口を挟んできた。オレは深く頷くと、
「ああ。違うよ。もっとこう、深い部分で彼女を愛しいと思ってるんだ。だから、消せない。ただ可愛いな、じゃないから。やっかいなんだ」
オレの言葉に、ツヨシは真顔のままで、
「それで、光国はその子を押し倒したいと思ったんですか」
きれいな顔をしているくせに、何てことを言うんだよ、と突っ込みたくなった。が、口から出て来たのは、
「思わないよ。さっきも言ったけどさ。もっと深い部分で、彼女を愛しいと思ってるんだ。何だろう? すごく優しく包んでやりたい、とかそんな感じだよ。押し倒して何かしたいとか思ってない。そうじゃなくて……」
うっかり泣きそうになった。
「傷つけたくないんだ、彼女を。笑顔が見ていたい。だけど、泣いてるとこばっかり見ちゃったんだよ、昨日は。実際に泣いてた時だけじゃなくて、そうじゃない時も心の中で泣いてた。そう感じた」
大事な人が出て行ってしまったミコの絶望感が、哀しみが、オレの中に流れ込んで来るみたいだった。
「彼女さ、一生懸命大人びた風にしようとしてるんだけど、そんなに無理するなって言ってやりたいんだよ。馬鹿みたいだよな、オレ」
涙が流れ出して、落ちた。ツヨシがそれを見ているのがわかったが、どうにも出来ない。ツヨシは、やはりいつもの通りの穏やかな口調で、
「光国。そんなに我慢しないでください。我慢ばっかりしていると、病気になってしまいますよ。私の前でくらい、素顔を見せてもいいじゃないですか」
「ありがとう」
それだけ言うのがやっとだった。
「それじゃ、仕事に戻りますね。ゆっくりしていってください」
美しく笑んで、去って行った。