表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イチゴのタルト  作者: ヤン
第四章 母
54/56

第七話 イチゴのタルト

「とりあえずさ、お茶にしようよ。あ、もう冷めたかな。淹れ直そうか」


 父が立ち上がる気配がした。横に向けていた顔を父の方に向けると、父はちょっと困ったような顔をしていた。


汀子(ていこ)さん。お茶を淹れるのを手伝ってよ」


 父が声を掛けると、汀子は父の方に顔を向けて、


「わかった」


 そう言って、オレから腕を外して背を向けた。少し行ってから、振り向くと、


「そうだよね。私の言うことなんて、理解出来ないよね。これ、自業自得って言うのよね」


 オレを詰っていた時とは全く違う、低い声だった。その顔は、何だか疲れ切っているように見えた。オレは慌てて、


「違う。そうじゃなくて……」


 汀子に逆らったら、叩かれる。また自分のそばに来て、恐ろしい顔になって……。


「いいのよ。違わないよ。光国(みつくに)が正しい」


 暗く微笑みを浮べて、キッチンに行った。さっきとは違い、二人は何も言い合わずに作業をしている。その様子をぼんやりと見ていると、腕を引かれた。


「光国。ありがとう」

「ありがとう? 何で?」


 ミコの表情が歪んだ。首を振りながら、


「わからない。でも、光国、ありがとう。ミコと出会ってくれて、ありがとう」

「ミコ。オレの方こそ、おまえにありがとうって言いたいよ。オレの母親はあんな人で、さっきみたいなことを日常的にされてたし、何でオレは生きてるのかなって思ってたけど」


 ミコの肩を抱き寄せて、


「おまえと出会う為だった。もう、それでいいや。でもさ、オレは母親に一応感謝してるんだよ。『飯田(いいだ)さん』と結婚してくれたから。オレは、『飯田さん』が大好きだからさ。あの人が、オレを人間にしてくれたんだから」

「そうだよね。感謝しなきゃね」


 ミコが、オレの肩に頭をもたせ掛けてきた。


「ミコ。愛してる」

「私もだよ、光国」


 そう言い合っていると、父と汀子がリビングに戻ってきた。二人にじっと見られたが、構わなかった。父がオレをいたわるような顔で、微笑んだ。


「さあ、光国。美子(みこ)さん。お茶とタルトをどうぞ」

「父さん。タルトは、オレたちが買ってきました」

「まあ、そうだけど。食べよう。汀子さんも座って。このタルト、おいしいんだよ。光国とオレの好物なんだ」


 汀子は俯きがちで、父が何を言っても返事しなかった。父は、手を合わせると、「いただきまーす」と陽気に言った。オレとミコも、それに倣った。やっぱりあの店のタルトはおいしい。特に、こんな大変なことがあった時には、慰めにすらなる。ミッコの力だろうか。


 そんなことを考えながら食べていると、


「光国。今日も、ミッコさんのタルト、おいしいね」


 ミコが、笑顔で言った。


「そうだな。オレも、今、そう思ってたよ」


 二人で顔を見合わせて、笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ