表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
46/56

第二十一話 認めて

 私は、お父さんの手を握った。こんなことをするのも、一体何年振りだろう、と思った。


「お父さん。私にとって光国(みつくに)は、すごく大事な人なんです。出会った時に、わかったんです。ずっと、一緒に生きていくんだって。この人なんだって。だから、私たちが付き合っていくのを、許してください。認めてください」


 必死に訴えた。ダメと言われたとしても、別れるつもりは全くない。でも、お父さんには、私たちのことを認めてほしい。そう思った。


 お父さんは、私を見て微笑むと、私の頭をそっと撫で、


「反対するわけ、ないだろう。おまえが、飯田(いいだ)さんを大事に思ってるのは、伝わったから。我が家の一大事に、おまえのそばにいてくれた優しい人で、夢を実現して昨日まで頑張ってきた人で、これから新しいことにも挑戦していく、やる気のある人で、しかも、おまえが大事だと思ってる人で、それで、どうして反対しなきゃいけないんだ?」

「お父さん……」


 お父さんは、ゆっくり光国の方へ視線を移動させると、


「飯田さん。ミコがね、人と待ち合わせしてるのに、一緒に来てほしいなんて言うから、きっと大好きな人に合わせようとしてるのかなと思って、こんな格好をしてきました。あんまりラフな服装じゃ、その人に失礼かと思いまして」


 お父さんは、ふっと黙った後、表情を改めて光国に言った。


「飯田さん。これからも、ミコをよろしくお願いします」


 光国に向かって、頭を下げた。光国も、「ありがとうございます」と言った後、お父さんに頭を下げた。私は、お父さんの腕につかまって、「ありがとう」と小さい声で言った。涙は、まだ止まっていない。


 お父さんは顔を上げると、


「それじゃ、お茶にしましょう」


 紅茶を飲んでから、タルトを口に運んだ。目が輝いているように見えるのは、気のせいだろうか。


「これ、本当においしいな」


 感激したように言うお父さんに、得意そうな表情になって、光国は、


「そうなんです。ここのケーキは、どれもおいしいんですけど、オレはこのイチゴのタルトが一番だと思っています。大好きな父が教えてくれた食べ物ですから」

「そうですか。お父さんと仲がいいんですね」


 お父さんの言葉に光国が深く頷き、


「四番目の父で、血はつながっていませんけど、四人の中で一番オレを大事にしてくれている父です。他の三人は、ほとんど記憶にないですけど、あまり相性は良くなかったんだと思います。オレは、『飯田さん』に出会えて、本当に良かったと思ってます」


 いつだったか、光国は言っていた。あの人が来てくれたから、オレは人間らしく生きられるようになったんだよ、と。


 まだ会ったことのない、『飯田さん』に、いつか会ってみたい。今度は、私を紹介してほしい。光国のお母さんには会えるだろうか。光国は、あまりお母さんのことを話したがらないし、苦手だと正直に言ったことがあった。それでも、光国と家族になる日が来るなら、その時は会って紹介してほしい。


 涙が止まって、ようやく私はタルトを食べ始めた。いつもの通りの、優しい甘さだ。


 光国が大事にしているタルト。それは、私にとってもお父さんにとっても、大事な物になった。


「ああ、おいしかった。ごちそうさまでした」


 手を合わせて、お父さんが言った。


「それじゃ、一足お先に失礼しますよ」


 お父さんは立ち上がると、伝票を手にして背を向けた。光国が、「あ」と言ったが、お父さんは振り返らずレジに向かって歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ