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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第十八話 朝

 その日は、ベッドに横になっても、なかなか寝付けなかった。ライヴ中の、様々なシーン。そして、ツヨシさんの解散宣言。それらが、思い出されて、頭の中が興奮したままになっていた。


 明け方になって、ようやく眠りに落ちたものの、二時間ほどで目覚めてしまった。冬休み中で良かった、と思った。


 眠るのは諦めて、ベッドの中で伸びをした後、体を起こした。着替えてリビングに行ったが、お父さんはいなかった。いつもならこの時間には、もう起きているのに、と心配になって、すぐに思い出した。今日からお父さんも冬休みなのだ。


「そうか。もう、そんな日なんだ」


 あと少しでお正月になってしまう。今年もいろんなことがあったな、と振り返っていると、「おはよう」と、声を掛けられた。


「あ、お父さん。おはようございます。もっと、ゆっくりするのかと思った」


 お父さんは、あくびをした後、


「そのつもりだったんだけど、何だか目が覚めてね」

「朝ごはんの準備をするから、ちょっと待ってて」

「ありがとう」


 急いで準備をして、二人で向かい合って食べた。お父さんは、時々私の方を見たが、何も言わなかった。私は、紅茶を一口飲んだ後、


「今日ね、午後、アリスに行ってきます」


 光国(みつくに)に会うとは言わない。付き合っていることすら伝えていない。説明がしにくくて、何も言わずに今まで来た。いつかは、ちゃんと伝えなければ、とは思っている。


「あそこのケーキ、おいしいんだろう。その内、一緒に食べに行こう」


 そう言えば、一度も一緒に食べたことがない。お父さんは、いつも忙しいから、そんなこと考えもしなかった。が、今はお父さんも冬休みだ。これは、チャンスかもしれない。


「わかったわ。じゃあ、今日、一緒に食べに行きましょう。断らないでね」


 お父さんは、驚いたように目を見開いたが、「わかった」と言ってくれた。


「じゃあ、三時までに行きたいから、その頃行きましょう」

「誰かと待ち合わせだったんじゃないのか」

「えっと……そうなんだけど……。何も訊かないで、一緒に行って」


 何故私はこんなにも、ムキになっているのだろう。が、今日を外してはいけない気がする。

 私の、そんな気持ちが伝わったのだろうか。お父さんはもう一度、「わかった」と言った。


 朝食を終えてすぐに、光国にメールを送った。お父さんと一緒に行くと伝えると、メールではなく、電話が掛かってきた。すぐに通話にして、


「はい」

「ミコ。お父さんに会え、ってことか?」

「はい」

「会って、ご挨拶しちゃっていいんだな」

「はい」


 一瞬の()の後、光国が息を吐き出したのが聞こえた。


「わかりました。覚悟して、アリスに行くよ」


 その声は、優しく私を包んでくれるみたいだった。私は、笑顔になり、


「光国。ミコは、光国が大好きです」

「そうか。オレも、ずーっとミコのこと、好きだ。じゃ、また後で」


 通話が切れた。スマホを机に置くと、午後に着ていく服を選ぶ為に、クローゼットの扉を開けた。

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