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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第十七話 解散

 ライヴは、普段と変わらない感じで進んでいった。ファンの人たちも、本当に楽しそうで、メンバーを呼ぶ、嬉々とした声が響き渡っている。


 そんな中で、気が付くと私は溜息をつき、憂鬱になっていた。楽しまないと、メンバーに悪い。そう思っても、心から楽しむのは難しい。


 本編が終わって、拍手が続く中、四人がステージに戻ってきた。一段と、ファンの歓声が大きくなる。が、スタンドマイクの前に立つツヨシさんの横に、他の三人も並んで立っているという、普段にないことを目の当たりにして、ファンがざわめき出した。


 もはや、歓声ではない。そこには、不安しか無くなっていた。


 ツヨシさんが、会場を一階から三階まで見回した様子が見えた後、マイクに手を掛けた。


(いよいよだ……)


 鼓動が速くなった。


 ツヨシさんは、スクリーンで確認すると、いつものように美しい微笑みを浮べていた。ただ、やはり寂しそうな、何とも言えない表情をしているように、私には見えた。


「皆さん。お伝えしなければならないことがあります。今日で、このバンドは解散します。今まで、ありがとうございました。さようなら」


 四人で揃って客席に頭を下げると、そのままステージを後にした。客席はパニック状態になっている。


 その状態が、どれくらい続いただろう。何度も、会場側から、コンサートは終了しました、のアナウンスがあったが、誰も客席を去ろうとはしない。私ももちろんそこに居続けた。と、よく知っている声が聞こえてきた。光国(みつくに)だった。


 彼は、アナウンスしていた人からマイクを借りたのだろう。彼女に代わって話し始めた。


「みんな、今まで本当にありがとう。オレたちがここまで頑張れたのは、みんなのおかげ。感謝してます。突然の発表で驚いたと思うけど、オレたち、一年くらい話し合いに話し合いを重ねて、今日のこの結果を出したんだ。出来たら、何で解散しなきゃいけないのかを追究しないでほしいんだ。オレたち、中学からずっと一緒にこのバンドをやってきた。いろんなことがあったけど、悔いはないよ。今まで本当に、本当に、ありがとう。

じゃあ、気を付けて帰ってね」


 その光国の言葉で、ようやくお客さんたちが出口に向かい始めた。私も、ゆっくりと歩き出した。


 外に出た時、ちょうど電話が鳴った。すぐに通話にすると、「今、どこ?」とミッコさんが訊く。答えながら、私は、頬を伝う涙に気が付いた。手の甲で拭っても、後から後から流れてくる。


「ミコ」


 肩を軽く叩かれて、ミッコさんを見上げる。彼女も頬を濡らしていた。


「終わったね」


 少しくぐもった声で、ミッコさんが言った。私は頷くと、


「はい。終わりましたね」

「じゃ、行こうか」


 明るい声で、マスターが私たちに声を掛けてきた。きっと彼も哀しいはずなのに、さすが大人だ。


 私とミッコさんは、目を合わせて頷き合うと、マスターの後を追った。

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