第十七話 解散
ライヴは、普段と変わらない感じで進んでいった。ファンの人たちも、本当に楽しそうで、メンバーを呼ぶ、嬉々とした声が響き渡っている。
そんな中で、気が付くと私は溜息をつき、憂鬱になっていた。楽しまないと、メンバーに悪い。そう思っても、心から楽しむのは難しい。
本編が終わって、拍手が続く中、四人がステージに戻ってきた。一段と、ファンの歓声が大きくなる。が、スタンドマイクの前に立つツヨシさんの横に、他の三人も並んで立っているという、普段にないことを目の当たりにして、ファンがざわめき出した。
もはや、歓声ではない。そこには、不安しか無くなっていた。
ツヨシさんが、会場を一階から三階まで見回した様子が見えた後、マイクに手を掛けた。
(いよいよだ……)
鼓動が速くなった。
ツヨシさんは、スクリーンで確認すると、いつものように美しい微笑みを浮べていた。ただ、やはり寂しそうな、何とも言えない表情をしているように、私には見えた。
「皆さん。お伝えしなければならないことがあります。今日で、このバンドは解散します。今まで、ありがとうございました。さようなら」
四人で揃って客席に頭を下げると、そのままステージを後にした。客席はパニック状態になっている。
その状態が、どれくらい続いただろう。何度も、会場側から、コンサートは終了しました、のアナウンスがあったが、誰も客席を去ろうとはしない。私ももちろんそこに居続けた。と、よく知っている声が聞こえてきた。光国だった。
彼は、アナウンスしていた人からマイクを借りたのだろう。彼女に代わって話し始めた。
「みんな、今まで本当にありがとう。オレたちがここまで頑張れたのは、みんなのおかげ。感謝してます。突然の発表で驚いたと思うけど、オレたち、一年くらい話し合いに話し合いを重ねて、今日のこの結果を出したんだ。出来たら、何で解散しなきゃいけないのかを追究しないでほしいんだ。オレたち、中学からずっと一緒にこのバンドをやってきた。いろんなことがあったけど、悔いはないよ。今まで本当に、本当に、ありがとう。
じゃあ、気を付けて帰ってね」
その光国の言葉で、ようやくお客さんたちが出口に向かい始めた。私も、ゆっくりと歩き出した。
外に出た時、ちょうど電話が鳴った。すぐに通話にすると、「今、どこ?」とミッコさんが訊く。答えながら、私は、頬を伝う涙に気が付いた。手の甲で拭っても、後から後から流れてくる。
「ミコ」
肩を軽く叩かれて、ミッコさんを見上げる。彼女も頬を濡らしていた。
「終わったね」
少しくぐもった声で、ミッコさんが言った。私は頷くと、
「はい。終わりましたね」
「じゃ、行こうか」
明るい声で、マスターが私たちに声を掛けてきた。きっと彼も哀しいはずなのに、さすが大人だ。
私とミッコさんは、目を合わせて頷き合うと、マスターの後を追った。