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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第十六話 最後の日

 いよいよ明日が、光国(みつくに)たちのバンドの最後のライヴだ。どうしているだろう、と思い、返事を期待せずにメールした。送って一分もしない内に返事が来た。


「早い」


 思わず呟きながら、メールを開いた。



「明日のライヴで、オレたちのバンドは無くなるよ。もう、一緒にやることは、ないんだろうな。明日、見に来てくれるの、楽しみにしてる。それから、やりたいことが見つかって、良かったな。明日は、ライヴの後、そのままそっちに泊るから、次の日、会おう。喫茶店アリスなら、問題ないだろう。三時くらいに来てくれたら嬉しい」



 行くよ、と返事をして、その後、胸がドキドキし始めた。


 出会ったその日、もう、心の距離は縮まっていた。翌々日には、告白し合ってしまった。その思い出のある、今ではしょっちゅう一人で行っている喫茶店アリス。そこで、あの人に会える。そう思うだけで、冷静ではいられなくなる。


(会えるんだ)


 胸が高鳴るのを押さえられなかった。



 翌日、ライヴが行われる大きなホールへ一人で向かった。ホールの外は、すでに人だかりが出来ていた。これからもっと、この場所に人が集まるだろう。ライヴの終わりに、どんな発表があるかも知らず、ただ楽しそうにしている。むしろ、その人たちが羨ましいような気さえした。


 ぼんやりと考えごとをしていると、「ミコ」と呼ばれた。よく知っている声だ。私は、声のした方に振り向き、


「ミッコさん」


 彼女の隣には、マスターもいた。二人とも、神妙な顔をしていた。それはそうだろう、と思った。これから何が起こるのか知っている、数少ない人たちなのだから。


「とうとう、今日になっちゃったね」


 無理矢理作ったように微笑むミッコさんが、言った。


「はい。ちょっと、気が重いです」

「そうだよね。だけど、あの人たちは、私たちの溜息は望んでない。楽しんでほしいと思ってるはず」

「そうですね。きっと、そうですね」

「楽しもうね。これが……」


(最後だから)


 囁くように、彼女が言った。私は、頷きながら、大きく息を吐き出した。


「見届けるのが、私とパパの役目だから」


 そうか。普段ミッコさんは、マスターを『パパ』と呼ぶのか、と、変な所に感心した。ミッコさんは、左手首の時計を見ながら、「あと五分で開場だね」と、沈んだ声で言う。


 お互いのチケットを取り出して、席の確認をし合ったが、ミッコさんたちは二階席だった。全く離れてしまった。


「終わったら電話するから、一緒に帰ろう」

「はい」


 係りの人の大きな声が響き渡った。


 最後のライヴが開場した。

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