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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第十四話 天才

 十二月半ばになった。あと十日もしたら、光国(みつくに)のバンドは解散してしまう。今の時点で知っているのは、ごく限られた人だけだ。


 学校は、いつもと変わりない空気だ。そんな中で、私は、誰にも言ってはいけない秘密を抱えている。演劇部の練習に参加していても、時々光国を思って、溜息を吐いてしまう。隣に立っていた加津子(かつこ)が、私の顔を覗き込むようにして見ると、


「どうしたの、ミコ。最近、何だか元気ないね。また、進路のことでも考えてるの?」

「違う」


 とは言ってみたものの、説明は出来ない。加津子は、「ふーん」と言うと、


「それよりさ、ここ、どう思う? 何か、しっくりこないんだけど。このセリフ、何か、どうにか出来ないかなって、ずっと思ってるんだけどさ」


 加津子に台本を見せられて、私は頷いた。確かにそのセリフは、何だか落ち着かない感じがある。もっといい言葉に変えられないかな、と思ったことが何回かあった。


 私は、少し考えて、そばに置いていたカバンから鉛筆を取り出すと、


「そうね。じゃあ、こんな風にしてみたらどうかしら」


 セリフの横に、思いついた言葉を書いていった。加津子が、その様子をじっと見ている。そして、


「ああ。そうだね。その方がいいと思う」


 目がキラキラしている。手ごたえを感じて、思わず微笑み、ガッツポーズをしてしまった。


「ねえ、みんな。ちょっとここさ、ミコが直してくれたんだけど」


 加津子の呼び掛けに、みんなが私たちのそばに集まった。加津子が、私の書いたセリフを、その役になって読み上げると、「おー」とみんなが声を上げる。


「あ、それです、加津子先輩。すごくいいです。ミコ先輩、天才じゃないですか」


 後輩の一人が、絶賛してくれる。普段から、嫌味にならない程度に、こうして人を褒める子だ。加津子は私の方を見て深く頷くと、


「本当に天才かも。ミコ。ホンを書く人になったら?」

「何言ってるの。たまたま上手くいっただけよ。天才って……褒め過ぎだから」


 そう言いながらも、私は顔が赤らんでいるのを感じていた。褒められて、照れてしまっていた。そして、わくわくしているのを感じていた。


(やってみたいかも)


 心が、物凄く動かされた瞬間だった。

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