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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第十話 決意表明

 翌朝、学校に行くと加津子(かつこ)は席に着いていた。相変わらず、登校するのが早いな、と感心した。


「加津子。おはよう」


 私が挨拶すると、加津子は目を上げて、


「おはよう」


 返事をしてくれた加津子の表情は、やはり暗い。が、私は、それは見なかったことにして加津子に近づくと、


「決めたよ」


 私の唐突な言葉に、加津子は、「え?」と言った。私は、もう一歩加津子のそばへ進むと、


「これからのこと、決めた」


 加津子は、私を見るばかりで、何も言わない。呼吸さえも止めているのではないかと思わされた。


「加津子。私は、劇団には入らない」


 加津子のポーカーフェイスが崩れた。明らかに動揺している。


「嘘だろ。だって、あんなに有名な劇団から誘われたのに」

「有名かどうかは、私には問題じゃないの。私がどうしたいか、それだけ。私には、覚悟がない。それがわかった。だから、黒羽(くろば)さんにそう伝える」

「もったいない。私なら、少しも迷わないのに」


 私は頷きながら、


「そうだよね。加津子なら迷わない。でも、私は迷った。迷ったこと自体が、答えだったんだって、昨日ようやくわかった。少なくとも、今は演劇で身を立てるつもりは、ないの」


 加津子は、しばらく黙って私を見ていた。私も、加津子をじっと見返していた。彼女は、頭を少し下げると、


「ごめん。私は、ミコに嫉妬してた。何で、私じゃないんだろうって。こんなにお芝居をやって生きていきたいと思ってるのにって。ごめん。そんなこと、ミコには関係ないのに。私の力不足なだけなのに。それを、ミコのせいにして。嫌な奴で、ごめん」

「加津子……」


 俯く加津子の背中に手を回すと、ぎゅっと力を込めた。


「嫌な奴なんかじゃないよ。私は、加津子が大好きだからね」


 何故だか涙がこぼれてきた。


「私、加津子を応援する。だから、私のことも応援してよね。大学の文学部に入って勉強するから。その先、どうなるかわからないけど、何にしても、私も頑張るから。一緒に、それぞれの道を目指して頑張ろう」

「ああ。そうだね。頑張ろう」


 加津子の声も、何だか涙声だった。


「私、加津子とは、一生親友のつもりだから。覚悟しておいてね」

「何の覚悟だよ」


 そう言って、加津子は小さく笑った。私も、自分で言っておいて、何だかおかしくなって、笑ってしまった。


「とにかく、加津子のこと、ずっと好きだからね」


 加津子から離れると、自分の席に着いた。周りのクラスメイトが、私たちを見ていたけれど、そんなことはどうでも良かった。


 心が穏やかになり、自然に笑顔になっていた。

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