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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第八話 圧迫感

 翌日、教室に入っていくと、加津子(かつこ)は自分の席に着いて、カバンから教科書やノートを取り出していた。そばに行って、挨拶しなければ。そう思ったが、足がすくんでしまう。


 私が動けずにいると、加津子が私の存在に気が付いた。少しの間、私を見つめた後、


「おはよう」


 抑揚のない声で言った。私も慌てて、挨拶し返した。いつもなら、彼女のそばに行って話し掛けるのに、今はそんなこと出来そうもない。私は、自分の席に着いて、授業の準備を始めた。重苦しい空気が、私たちを取り巻いていた。


 お昼休みをどうしようかと迷っていると、加津子が私の前に黙って座った。何も言わずに、お弁当の包みを開け、食べ始めた。私も急いでお弁当を出し、黙って食べた。


 いつもなら、加津子のそばにいれば安心出来るのに、昨日あの人に出会ってから、すっかり変わってしまった。この圧迫感は、かなりつらい。


 黙って食事し合った後、立ち上がった加津子が私を見た。心臓が跳ね上がるようだった。


「それで? どうする気?」

「えっと……」


 答えられずにいる私に、加津子は、ふっと笑みをもらし、


「いいね。選択権があって。私には、そんなもの、ない」


 冷たい響きだった。何か言わなきゃ。そう思ったけれど、口からは何も出て来なかった。ただ、息苦しかった。


 放課後になった。私が加津子の方を見ると、加津子も私を見ていた。彼女は口を開くと、低い声で言った。


「ミコ。今日、私、クラブ休むから。先生と先輩にそう言っておいて。じゃあね」


 驚いて、目を見開いてしまった。


「え? 帰るの?」


 加津子は、私から視線を外して俯いたが、すぐに顔を上げ、


「今は、ミコの顔を見ていたくない」


 はっきりと、そう告げられた。


 教室を足早に出て行く彼女に、掛ける言葉がなかった。


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