第七話 相談
その日は珍しく、お父さんの帰りが早かった。向かい合って夕ご飯を食べながら、昼間の事件をいつ話そうか、とタイミングを計っていた。
「ごちそうさま」
お父さんが手を合わせて言い、椅子から立ち上がった。私はお父さんを見上げると、
「あの……話があるの」
お父さんは首を傾げてから、椅子に座り直した。私は、カーディガンのポケットに入れておいた例のメモ用紙を、お父さんに見せた。
「これ、何だ? 劇団? 黒羽蜜?」
お父さんの疑問はもっともだ。私は、深呼吸をしてから、
「今日、演劇の大会の後に、この人から劇団に来てほしいって言われて……」
「だまされてないか?」
私は首を振り、
「顧問の先生がその人を知ってて……。騙されてはいないみたい」
お父さんは、しばらく黙ってその紙を見た後、
「それで、ミコはどうしたいのかな」
そう言って、私をじっと見た。私は、俯いてから、また首を振った。
「わからない。どうしたらいいのか。どうしたいのか。加津子は、演劇をやっていくって言ってた。でも、私は……」
私のためらいに、お父さんはきっぱりと言った。
「じゃあ、やめておきなさい。ミコが、本当にやりたいって言うなら、やらせてもいいかと思ったけど。ミコの気持ちがそんななら、やめた方がいいとお父さんは思う」
「でも……」
「誰だって迷う。ミコもしっかり迷いなさい。真剣に考えなさい。そうして出した結果なら、お父さんは応援するつもりだから」
そう言ってお父さんは立ち上がり、流しにお膳を持って行った。
「じゃあ、おやすみ」
お父さんが、部屋から出て行くのを見送った後、大きな溜息を吐いた。
「真剣に考えなきゃ」
わざと声に出して言うと、椅子から立ち上がった。