第五話 知らない人
相変わらず、もやもやした日々を過ごしている。将来を考えるとは、こんなにも大変なことなのか、と初めて知った。
加津子は、演技にますます磨きが掛かって、相手をする私もそれに影響されていた。すごいパワーを持っている人だ、と改めて感じさせられていた。
「次の大会で、先輩たちは引退だから、迷惑掛けないようにしないとね」
加津子の言葉に頷くと、
「そうだね」
「何だ。最近、ずっとそんな感じだね。まだ、悩んでるんだ?」
「悩むよ。一生のことだもの。加津子みたいに、やりたいことがはっきりしてれば別だけど、私はそうじゃないから」
あれから、光国は電話してこない。彼は、一体この先、どうすることにしたんだろう。彼もまだ悩んでいるだろうか。
「受験まで、まだ一年くらいあるんだから、今からそんなじゃ大変でしょ」
「そうなんだけど」
「とりあえず、今は演技に集中しよう」
「はい」
と、いい返事をしてみたものの、惑いは消えてくれない。
演劇の大会が終わった。賞はもらえなかったものの、私たちの学校だってなかなか良かったと思っている。久しぶりに、ちょっとだけすっきりして、お互いを褒めたたえ合った。
ロビーで点呼を取ってから外に出ようと歩き出した時だった。誰かに突然肩を叩かれた。びっくりして、思わず身を縮めた。
ゆっくり振り向いたが、そこには知らない女性が立っていて、私に笑顔を向けていた。