第四話 加津子
月曜日、私は担任の先生に進路調査書を提出した。地元と東京の大学の文学部を受験することにしてみた。
司書の先生が言っていたように、確かに私は文学が好きだし、勉強してみたいという気持ちになった。が、それが、どうしてもやりたいことなのか、と考えると、わからなくなる。
昼休みに、加津子に進路について話してみた。こんな真剣な話をするなんて、初めてだと思う。
「で? 加津子は、どうするの?」
「私? 学校には行かない」
お弁当を食べる手を止めて、私を真剣な表情で見ながら言った。
「私は、演劇をやっていく」
きっぱりと、そう言った。その加津子の顔は、この前見たミッコさんにも似ていた。揺るがない決意。それを感じた。
「そうか」
それしか言えなかった。
加津子とずっと一緒に演劇をやってきて、自分でも演劇が好きだと思っていたのに、その選択肢は私には浮かんでこなかった。が、加津子はそうではなかった。
「ミコは、演劇やらないんだ」
「やらないっていうか、思いつかなかった」
「それぞれ考えがあるもんね。でもさ、ミコが文学とか司書の勉強して、学校の図書館の先生になってるの、何となく想像出来る」
「そうかな」
私自身は、何となくピンと来ない。何か他に、もっとこれだというものがあるのじゃないかと、今も思っている。
「とにかく、私は演劇を頑張ってみるよ」
爽やかに笑う。つられて私も笑顔になる。
「さ、早く食べよう。昼休み、終わっちゃうよ」
言われて私は、急いでお弁当を食べ始めた。心の中は、すっきりしないままだった。