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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第三話 やめる

 夜、部屋で宿題をしていると、着信音が鳴り始めた。見ると、光国(みつくに)からだった。すぐに通話にすると、私が何か言う前に、


「やあ。スウィートハニー。元気?」


 普段そんな呼び方をしないのに、おかしい。少し酔っているのかもしれない。


「どうしたの、光国? 何だか変よ」

「変? オレはいつも変なんだよ」


 やはり、おかしい。何かあったのは間違いないだろう。が、それについて訊いていいのか悪いのかわからず、私は光国の次の言葉を待っていた。


「いつもの通り、変なんだ、オレは」


 繰り返して言った。その声は、何だか哀しそうに聞こえた。


「やめる。もう、やめる」


 私の返事は必要ないみたいに、勝手にしゃべっている。


「もう、やめてやるよ、バンド」

「え」


 さすがにびっくりして、声を上げてしまった。うっかりスマホを落としそうになって、持ち直した。


「光国。今、何て言ったの?」


 聞き間違いであってほしいと思って、怒鳴るような勢いで、訊いた。光国は、ふっと息を吐き出して、


「聞こえなかったかな。もう一度言うよ。もう、やめてやるよ、バンド。そう言った」

「どうして……」

「ま、いろいろあったから。仕方ない」


 いろいろ、何があったのだろう。少し前に話した時は、そんなこと何も言っていなかったのに。


「ここ一年くらい考えて、出した結果だから。仕方ない、としか言えない」


 断ち切るように言われて、私は何も言えなくなった。

 一年もの間考えていたなんて、一体あのバンドに何が起きたんだろうか。


「ミコ。オレは、もうやっていけない。だから、この先のこと、考えなきゃいけないんだ」


 さっきまでより、少し口調が優しくなっていた。


「あ。私もなの。今日ね、進路調査書を渡されて、来週の月曜までに、どうしたいのか考えなきゃいけないの」

「そっか。一緒だな。オレがおまえの年齢の時は、何にも悩まなかったよ。だって、バンドを続けて、プロになるって決めてたから。だから、今おまえが悩んでいるようには悩まなかった。だけどさ、そのバンドがなくなって、この先どうしようかって考えなきゃいけなくなったら……頭の中が真っ白になった。それで、普段ほとんど飲まないのに、酒なんか飲んじゃって。おまえに迷惑電話をしているところなんだ。ごめん」


 また落ち込んだような、憂鬱な声になっている。その哀しみが、私にも伝わってきた。


 バンドが、とにかく大事な人だ。ずっとずっと大事にしてきた物。それなのに、何故。


「電話、切るよ。本当にごめん。オレは、おまえに甘やかされようとした。じゃあ、また」


 言うなり、通話が切れた。その行動に、彼の心の痛みを感じずにはいられなかった。


「どうして?」


 スマホの画面を見つめながら、そう呟いた。


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