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イチゴのタルト  作者: ヤン
第三章 未来
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第一話 進路

 放課後の図書館で、私は一人本を読んでいた。ふと外に目をやると、水色の空が紅茶色に変わっていた。いつの間にか、随分と時間が経っていたようだ。


 読んでいた本を手に、カウンターへ向かった。パソコンに何か打ち込んでいた司書の先生が目を上げて、


「借りてく?」

「はい。貸出、お願いします」


 先生は手を動かしながら、


藤田(ふじた)さん。あなた、読書家ね。しょっちゅう、いろんな本を読んでるものね」

「演劇部でやる演目の原作は、やっぱり読んでおきたいですし、その人の書いた他の作品にも興味が湧くんです」

「本が好きなのよね」

「はい。本の手触りとか匂いとか、すごく好きです」


 触れるだけで、期待感が高まる。どんな物語が展開していくのだろう。考えると、わくわくしてくる。


 先生は、私に微笑むと、


「藤田さんも、私と同じ仕事が向いてるかもしれないわね。ただ、なかなか狭き門なのよ」

「そうなんですか。好きだけじゃ、やっていけないんですね」

「そう」


 手続きを終えて、先生は私に本を渡してくれた。


「ありがとうございます。さようなら」

「さようなら。気を付けて帰ってね」


 軽く手を振ってくれる。私は、振り返すわけにもいかないので、一礼してから図書館を出た。


「私と同じ仕事……か」


 さっき先生が言っていたことを思い出し、思わず呟いた。


 今日、ホームルームの時間に、進路調査の紙を渡された。来週の月曜までに提出するように言われた。


(進路?)


 私は一体、どうしたいのだろう。高校二年になったというのに、何故か今まで真剣に考えたことがなかったように思う。高校を卒業して、そして、どうするのだろうか。大学に進学するのか、就職するのか。


 ぼんやりと考えていると、誰かが私の肩をポンと叩いた。振り向いて確認すると、親友の水原(みずはら)加津子(かつこ)だった。


「ミコ。今日、ちょっと用事があって、早く帰らなきゃいけないんだ。図書館には付き合えない。じゃあ、また明日」

「うん。じゃあね」


 加津子は、手を振って教室を出て行った。


 加津子が卒業後どうするのかも、そういえば訊いたことがなかった。けれど、どう考えても、この先もずっと一緒にいるということはないだろう。ということは、一年ちょっとしたら、私と加津子は今みたいな関係ではいられなくなるということだ。その現実が、私を驚かせた。


(ずっと、このままなのかと思ってた)


 そんなはずないのに、どこかでそれを信じていた。二人は、同じ制服を着て、同じ授業を受けて、一緒に演劇部でお芝居をして。そんな日々が、当たり前に続いて行くのだと、思い込んでいた。


(私は、どうしたいんだろう)


 夕焼けを見上げながら、溜息を吐いた。


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