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イチゴのタルト  作者: ヤン
第二章 普通の恋
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第十話 愛してる

 帰宅してから、ネットで吉隅(よしずみ)さんの演奏会の記事を探した。やはり、ものすごく褒めているものばかりだ。そうだよね、と思いながら一人頷いていた。


 と、その時、着信音が鳴った。画面を確認すると、光国(みつくに)からだった。すぐに通話にすると、


「ミコです」

「さっき、里菜(さとな)ちゃんから写真が送られてきた」


 眠いだろうに、わざわざそのことで電話をくれたのか、と、感動してしまった。


「あの……どうだったかしら?」


 光国が黙ってしまったので、訊いてみると、彼は大きな息をついた。


「ダメです」

「ダメ?」


 傷ついた。私としては、結構いいかな、と思っていたのに。好きな人からこんなふうに言われたら、立ち直れそうもない。


 光国がまた溜息をついたのが聞こえた。胸が、ざわざわした。


「あの服着て出掛けたら、みんながおまえを、振り返ってでも見ちゃうだろ。オレはそれが嫌なんだ。わかってる。馬鹿みたいだと思ったんだろう。そうだよ。オレは馬鹿なんだ。おまえのことになると、オレは馬鹿になるんだ」


 光国が言ったことを頭の中で整理してみる。それはどういうことだろう。


 しばらく考えて、わかった。


「それは、もしかしたら、私を褒めてくれてるの? 可愛い? 似合ってた?」

「当たり前だろう。おまえは可愛い。あの服は、おまえにすごく似合ってた。だから、あれを着て出歩いてほしくない」


 今度は胸がドキドキし始めた。


「光国。ミコは、今すごく嬉しいです」


 私の言葉を聞いているのかどうか。光国は嘆き口調で、


「あー。オレ、どうしておまえより十歳も上なんだろう。おまえの同級生とかだったら、こんな心配しなくていいのかもしれないのに」


 急に子供みたいなことを言い出したので、つい、可愛い、と思ってしまった。が、彼はすぐに口調を改めて言った。


「ミコ。オレ、今のところ、おまえが言ってたような、普通の恋人同士みたいなことは、出来ない。あ、キスしちゃったか。ごめんなさい。オレがいけなかった。オレは、バンドのギタリストをやめることは出来ないし、このまま売れっ子でいたい。だから、この状態を、今すぐ変えることは出来ないと思う。でも、オレは、おまえだってわかってるから。他の人を好きになったりしない。それは信じてくれ」


 私は、見えないとわかっていながら頷くと、


「光国。ミコも、光国だってわかってる。光国を信じるから、ミコの気持ちも信じて下さい。ミコが、いつまでも子供だから、ごめんなさい」


 有名なバンドのメンバーが、女子中学生と……なんてことになったら、きっとマスコミは喜ぶだろう。でも、それはさせられない。光国が傷つく。私も傷つく。彼らのファンも傷つく。そんなことには絶対したくない。我慢が必要な時期なんだとわかってはいる。寂しいけれど、仕方がない。


 私が思いを巡らせていると、光国が言った。


「待つって言っただろう。十年でも二十年でも待つから。だけど、わかってくれ。オレは今朝みたいにされちゃうと、自分を律することが難しいんだ。おまえの気持ちはわかる。叶えてあげられなくてもわかってる。だけど、オレはギリギリの所に立ってる感じなんだ。いつか踏み外しそうで、それを恐れてる。だけど……」


 光国が黙った。私が名前を呼ぶと、彼は囁くように言った。


「愛してる」


 涙がこぼれてしまう。何も言えずにすすり上げていた。彼は、何度も何度も囁く。そして、私の心を幸せで満たしていった。


「私も愛してるよ」と心の中で何度も返事していた。 

第二章は、これで終わりです。第三章も、引き続き藤田美子が主人公です。

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