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イチゴのタルト  作者: ヤン
第二章 普通の恋
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第九話 大人

 少し遅れてリビングに行くと、光国(みつくに)は誰かと電話で話していた。話の内容から、タクシーを呼んでいるらしいのがわかった。デートは、もう終わりらしい。


 電話を切った光国が振り向き、私がいることに気が付くと、驚いたように目を見開いたが、すぐに里菜(さとな)さんの方に向き、


「あと、十分くらいで来るって」

「そう。ごめんね、送ってあげられなくて。仕事中は、さすがに無理だわ。ツヨシは運転しないしね。ま、出来たとしても今日は運転させられないか。ツヨシ。オールナイトだったんだから、眠いでしょ。部屋で休んできなよ」


 里菜さんの言葉に頷くと、中田(なかた)さんは光国に声を掛けて、部屋に向かった。


 中田さんを見送った後、私は光国に視線を向けた。


「光国。帰っちゃうの?」

「うん」

「ゆっくり休んでくださいね」


 出来るだけ、大人みたいな口調で、冷静に。そう自分に言い聞かせたのに、声が少し震えていた。また、しばらく会えないんだろうと思うと、涙が出そうになった。


 光国は私に一歩近付いて、手を伸ばそうとして、そのまま下ろしてしまった。光国は、私をじっと見ると、


「さっきの……答え。オレたちは、付き合ってるし、恋人だ。オレは、そう思ってる」

「私も、そう思いたいです」


 自信なさげに言うと、光国はもう一歩私に近づき、私の髪を撫でてきた。私は、頭を振って、


「私は、もう小学生じゃないわ。小さい子にするみたいに、そうするのはやめて」


 本当は、そうされるのが好きなのに、気が付いたら、涙を流しながらそんなことを言ってしまっていた。光国が、私から少し距離を取った。


「ごめん。別に子供扱いしたつもりじゃなかったんだけど」


 部屋がしんとしてしまった。私は、自分の感情が抑えられず、そんな自分を子供っぽいな、と呆れていた。光国は、何も言わずに私を見ている。私も、泣きながら、彼を見ている。


 と、里菜さんが私の肩を叩いた。


「ミコ。ちょっとお店の方に来てよ。ミコをイメージして作った服があるから、それ、着てみて」

「あ、はい」


 里菜さんは、二着服を持ってきてくれた。試着室で、渡された服の一つに着替えた。デザインもサイズも良かった。試着室のカーテンを開けると、「どうでしょう」と里菜さんに訊いた。里菜さんは手を叩いて、


「やっぱりいいね。もう一着の方も着てみてよ」


 着替えて見せると喜んでくれたが、反応を示さない光国に顔をしかめると、


「ちょっと、光国。ちゃんと見てあげなよ。彼女がファッションショーやってるんだから」


 里菜さんの言葉に、光国が何か言おうと口を開いた時、外でクラクションが聞こえた。タクシーが来てしまったようだ。鼓動が速くなった。また、泣いてしまいそうだ。が、私は、必死でそれを我慢すると、笑顔を作り、


「光国。さようなら。またね」

「ああ。また。今日は会えて嬉しかったよ」


 自然な笑顔で言う。私は泣きそうなのに、この人は笑顔。やっぱり大人だ。


 背中を向けて外に出て行った。車の走り出す音が聞こえた。途端に涙が流れ出した。里菜さんが、背中を撫でてくれる。


「ミコは、本当に光国を好きなんだね」


 里菜さんが、そう言って小さく笑った。私は、しゃくり上げながらも、深く頷いた。里菜さんは、私を上から下まで見た後、



「ミコ。その服、本当に似合ってる。写真撮ってもいい? 光国に送っておくよ」


 私が返事するより先に、里菜さんは写真を撮ってしまった。着替えて、もう一枚の服を着たのも撮った。自分で言うのもなんだけれど、この服は本当に私に似合っていると思った。


「こんな可愛い彼女がいたら、落ち着かなくなっちゃうよね」


 里菜さんが笑った。私もつられて笑った。ようやく笑えた自分に安堵した。


「この服、頂きます。いくらですか」

「あげるって言いたいんだけどね、ごめん。えっとね」


 告げられた金額を払った。今来ている服はそのまま着て帰ることにし、もう一着は袋に入れてもらった。


 昼食を一緒に取ってから、タクシーを呼んだ。タクシーに乗る前、里菜さんが私を抱きしめてくれた。


「またおいで。いつでもいいから」

「ありがとうございました」


 手を振り合って別れた。


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