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イチゴのタルト  作者: ヤン
第二章 普通の恋
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第八話 キス

 床に座ると、ベッドで眠る光国(みつくに)の寝顔をじっと見た。夢を見ているのか、時々微笑んでいる。その幸せそうな表情に、私はほっとして思わず微笑んだ。


 知らぬ間に、私もベッドのふちに頭をのせて眠ってしまっていた。


 髪に触れられた感じがして目をゆっくりと開けると、光国が私の髪を一筋握っていた。が、私が目覚めたことに気が付くと、その手を広げた。握っていた髪が彼の手から滑り落ちて行った。光国は、その行方を目で追った後、体を起こし、


「ミコ。会えて嬉しいよ。だけど、さっきのはダメです。ああいうのはダメです。オレの気持ちも考えてください」

「気持ち?」

「とぼけるんだ、おまえは。わからないなら、それで結構」


 何を言いたいのかはわかっている。だけど、私の気持ちも考えてほしい。いつもなら絶対に口にしないのに、止められなかった。


「私の気持ちも考えて。さっき、私はあなたにそうしたかったの。わかるでしょう。あなたと私の関係が世の中に知られたらまずい。わかってます。だから、二人きりで会ったらいけないし、外で手をつないで歩くなんて出来ない。普通の子たちがするようなデートだって出来ない。全部わかってます。だけどミコは、ちょっと……」


 口をつぐんで、床をじっと見た。あのクラスメイトの顔が浮かんできた。恋人が出来て、遊園地でデートして、すごく楽しかった、と嬉々として話していた。幸せそうだった。


 私と光国はどうだろう。付き合い始めて四年が経つけれど、一体、これは付き合っていると言えるのだろうか。私と光国の関係って何なんだろう。


 言ったら、光国を傷つけてしまうだろう。そう思ったのに、私は顔を上げて光国を見ると、言わずにいられなくなってしまった。


「ミコは寂しいです。私たちの関係って何なんだろうって……付き合ってるって言えるのかな。恋人って言っていいのかなって、ミコは……」

「ごめん」


 光国はそう言うと、私をぎゅっと抱きしめて、それからキスをした。これは、初めてのキスだ、と、どこか冷静に考えていた。唇が離れてから、光国はちょっと困ったような顔で、もう一度、「ごめん」と言った。彼は、私の頬を撫でながら、


「オレ、その内おまえにいけないことしちゃうんじゃないかって、それを恐れているんだよ。わかってると思うけど。オレのこと、笑ってくれ。その方が救われる」

「笑いません」


 私は、少しも笑わずに言った。私の、その真剣な表情をどう解釈したのか、光国は大きな溜息を吐くと、相変わらずの困ったような顔で私を見返し、



「煽るなよ。オレはな、そんなに冷静でいられません」


 ベッドから立ち上がると私の髪を撫で、すぐに部屋から出て行ってしまった。

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