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イチゴのタルト  作者: ヤン
第二章 普通の恋
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第四話 二人きりで

「今日、すごく調子良かったね。何か良いことでもあった?」


 クラブの後、加津子(かつこ)に言われて、私は思わず笑顔になって、深く頷いた。


「明日、良いことがあるの」

「明日、何かあるんだ」

「そう。東京に行くの」


 私の言葉に、加津子は、「そういうことか」と言って片頬を上げた。私は即座に、「違うの」と否定した。加津子は、驚いたような顔になり、


「え。()()()とデートじゃないんだ。じゃ、何しに行くの?」

「オケの演奏を聞きに行きます」


私がそう言うと、加津子は首を傾げた。


「ミコ。クラシック音楽、好きだっけ?」

「今までは、あまり関心なかったです」

「そうだよね。それが、どうして急に東京まで行こうと思ったわけ?」


 私は、吉隅(よしずみ)ワタルさんの演奏会に行くことになったいきさつを、興奮ぎみに語った。加津子は、いつもの通りの冷めた表情のまま、「へー。そうなんだ」と相槌を打っていた。


「加津子は、その音を聞いてないから、そんなに冷静でいられるのよね。本当にすごいのにな」

「それは、伝わりました。じゃ、楽しんできなね。でもさ、東京に行くのに、あの人に会わないの? 忙しいとか?」

「忙しいけど、一応会います」

「そりゃそうだよね。良かったじゃない」

「そうなんだけど」


 つい、歯切れが悪くなってしまう。


「どうした? まさか、ケンカしたとか」

「それは、ない。あの人は大人なので、子供相手に本気で怒ったりしません」

「じゃあ、何?」


 言うか言わないか迷ったが、口から出てしまった。


「本当は、二人きりで会いたいの」

「え?」

「私があの人と会う時、いつも誰かがいるの。今回も、中田さん一家がそこにいる。だって、中田さん家で会うんだから。二人きりで会ってるのを見られたら問題になるかもしれないから、だからそうした。でも……」


 私が黙ると、加津子は私の頭をポンと叩いた。長身の加津子を見上げると、彼女は優しい顔で笑っていた。


「大事に思われてるんだよね、ミコは」

「それはわかる。わかってます。でもね……」


 加津子は、私の頭を撫でると、


「帰ろう」


 話の続きはせず、そう言って歩き出した。私もすぐにその背中を追った。


 私のわがままな思いは解決を見なかったけれど、加津子に話したことで、何となくすっきりした。そして、明日の演奏会への期待感が戻ってきて、私をワクワクさせた。

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