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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第二章】王都とギルドと怪盗と
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第四十九話

 

 ───和やかな空気が流れる中で、ジューロは幾つか気がかりな事を思い出した。


「ぬあ、そうだ!姐さんやフレさんにも礼を言わねば。お二人はどこにおりやすかね?」


「えっと、二人とも今は居ないです…」

「ジューロの容態が安定した後に帰ったよ、ギルドメンバーにも色々と話しておかないと…ってさ」


「夜も遅かったですし、姐さんを一人で帰らせるワケにもいかないからって、フレッドさんも一緒に」

「左様でござんすか…」


「野次馬も多く来てたからね。あの騒ぎで騎士団が来ないとも限らないし、色々と対応しないといけないのかも…」

「ふぅむ、なるほど」


 ラティはギルドマスター代理として、責任のある立場だ。

 今ギルドがどういう状況になっているか分からないが、責任者があの場に居ないのはマズイかもしれない…と何となく思った。


 何せ今回、チーネの件もからんでいる。

 だが、ギルドの事に関しては、ジューロは何も出来る事はない。

 しかし心配もいらないだろう、ラティは聡明な人だ、そこは上手く立ち回ると思う。


「ところで、チーネさんはどうなりやしたかね?」

 もう一つ気になるのはチーネの件だ。


 あの後なにかあったのなら、のんびりと会話どころではないハズだから、彼女が無事なのは確かだろう…と思う。


 問題は今、どういう状況にあるのかということだ。


 本人の意思では無いとはいえ、チーネはギルドメンバーや冒険者の二人に怪我を負わせた。

 それについても思うところがあるし、操られたであろう経緯についても聞いておきたい。


「ちーちゃんは…、そのぉ」

「うん…」

 リンカとグリンの視線が、ジューロの対面に置いてあるベッドに向けられた。


「ぬ?」

 ジューロは首をもたげ、二人が向けた視線の先を見る。


 そこにはベッドの上で縮こまり、黙ってこっちを見ているチーネの姿があった。


「ぬわぁ!?…いたのでござんすか!?」


 あの落ち着きのないチーネが、借りてきた猫のように大人しくしている。

 猫のような顔をしているからそう感じただけかもしれないが、その態度にジューロは驚いた。


「いたなら声くらい掛けておくんなせぇよ、まったくもー」

 ジューロは不平を言葉にしてみるが、それでもチーネの反応が鈍い。


「ん?…チーネさんも何か、怪我でもしやしたかい?」


 その様子を訝しみ、ジューロが訊ねてみると、チーネは顔を横に振る。

 そしてボソリと小さな声で、チーネが一言つぶやいた。

「ごめんなさい…」


「な、なんが?」

「その…、怪我とか…」


 どうやら、あの時の出来事は覚えているらしい。

 黙っていたのは気まずさからか、話に入る事に躊躇していたということだろう。


「あー、こいつぁ別に…。ウネウネした化物にやられたやつなんで」

「う…」


 このまま黙られても困ると思い、気にしないよう声を掛けたのだが…チーネは言葉に詰まり、うつむいてしまった。


「うぅむ、参りやしたね…。色々と事情を聞きたいのでござんすが───」

 チーネはメンタル的にダメそうなので、ジューロはリンカ達に話を振る。


「あっしが寝てる間、もう皆で話はしてたりとか?」

「ふぇ?…あ、いえ!まだ何も話せてないですっ」


「ジューロの事も含めて、それどころじゃ無かったからね…」

「左様でござんすか、んじゃあ…」


 もたげていた頭を枕に落とし、ジューロは目を瞑った。


「あっしは二度寝しやすね、おやすみなせぇ」


「ちょっ、ジューロさんっ!?」

「寝るの!?」

 リンカとグリンから突っ込みが入る。


「いや、だって…話をするなら姐さんやフレさんが来てからで良ござんしょう?」


「いやま!そうだけどさ?」

「それになんか…起きたばかりでござんすが、まだ眠いんで…」


「あー…ハハハ、薬が効いてるのかもね。安静にしとく分には良いのかな?」

「うむ、なので寝やす…。リンカさんも、ちゃんと寝るのでござんすよ?」


「なんでですか!」

「なんでって…、リンカさんも疲れた顔しておりやすし…」


「ジューロさんの容態が急変したらどうするんですっ!?」

「いや、流石にもう大丈夫でござんすよ!?それに万が一があっても、グリンと…ほら、一応チーネさんもおりやすし。リンカさんが看てなくともね?」


 ジューロがそう言うと、リンカは不服そうに頬を膨らませた。

「そーかも知れませんけど、…やっぱり私じゃ頼りないですか?」


「ぬう…?なんで?そんなことはありやせんけども」

 少し話が噛み合ってない気がして、ジューロは首をひねり、不服そうな理由を自分なりに考えてみる。


 もしかしたら彼女は「頼りにされてない、役に立ててない」などと考えているのだろうか?


 リンカが献身的なのは、今までの事から良く承知しているが、その性質がダメな方へ向いてる気がする。


 何が彼女を突き動かしているのか分からないが、それはジューロにとって心配の種でもあった。


「あっしは心配してるだけで…、リンカさんはもっと人を頼った方が良うござんすよ」

 知る限りだが、彼女はあまり誰かに頼るということをしない。

 何でもかんでも、自分でやろうとする傾向が強いように思う。


「おめぇさんはどうにも、人の事ばかり気に掛けすぎなんで…。おもんぱかる心はリンカさんの良い所でござんすが、限度ってもんが───」

「それを言うなら、ジューロさんだって…」


「あっしは頼っておりやすし、いつも助けられておりやすよ」


 ジューロがこうして生きてるのも、リンカやグリンに頼ってきたからだ。


 それにリンカやグリンだけではない。以前、立ち寄る事になった獣人の村…ラサダ村でも、ジューロは人に頼りきりだった。

 情けない話だが、そこで出会った子供達にすら頼り、実際に助けられている。


「むー!」

 リンカは納得してない表情だ、ジューロの言葉を嘘だと思っているのかもしれない。


 しかし幸いな事に、嘘を見抜けるチーネがそこにいる。

「…チーネさん、あっしの言葉に嘘はねぇでしょう?」


 チーネは会話にこそ入ってこないが、聞き耳を立てているのは分かる。

 獣人の場合、本当に耳を立てるから分かりやすい。


「えっ…あ、うん。正直に話してる…。と、思う」

 急に話を振られたチーネは戸惑いつつも、ちゃんと返答をしてくれた。


「と、いうわけなんで。だからまぁ、リンカさんだけが気を張る必要はござんせん。…心配してくれるのは、本当に嬉しく思っておりやすが」


 ジューロの一言を聞いてから、リンカはチラリもチーネを見やる。

 チーネが頷き、これも本当だという意思表示を示すと、少しは納得してくれたようだった。


「あ、それとも。チーネさんを信用してねぇのでござんすかね?」

「ええっ!?いや、そんなこと…」


 ジューロがニヤリと笑いながら言うと、リンカは慌てたように否定した。

 だが、その言葉が聞こえないフリをして、ジューロは話を続ける。


「でも、イマイチ信用できねぇのは分かりやすよ?チーネさんは、あっしの体調が悪くなっても、放っておいて逃げだしそうでござんすからねぇ?」


「さ、流石にそんなことはしないにゃ!」

 チーネはジューロの意見に異議を唱える。


「本当でござんすかぁ~?『合わせる顔がない~』とか言い出して、気付いた時には病室から消えてた…とか!ありそうじゃ…ござんせんかねぇ?」


「ニャぐふっ!」

 これがチーネにとって図星だったのか、ぐうの音を上げた。


「あ、やっぱジューロもそう思う?」

 グリンもジューロと同意見のようである。


 そして、他にも何か話したい事があるのか。グリンは少し考えた後、再び口を開いた。


「あのさ、チーネ。…もう話しちゃうけどさ?男女で同じ病室に入ってるの、おかしいと思わなかった?」


「…へ?」

 チーネはキョトンとして分かっていない様子だったが、話を聞いていたリンカは「言われてみたらそうかも…」と、違和感に気付いたようだ。


「姐さんの意向でね、同じ病室にしてもらったらしいよ?どうせ個室だと逃げ出すからってさ」


「えっ!?ちーちゃん、逃げるつもりだったんですか!?」

「し、しにゃい!逃げない!!」

 リンカに食い付かれ、チーネが慌てて首を横に振った。


「ま!可能性の話だからね?後は、聞こえは悪いけど…。怪我したジューロを見せておけば反省もするし、無責任に逃げ出しにくくなるだろうってさ?」


「へー!姐さん割りと鬼でござんすなぁ…」

「あ、最後のはフレさんのアイディアだから」


「あぁ、なるほど…。鬼か?」

「ハハハ…、ま!だからさ、チーネは看てくれると思うよ。責任感に関しては信頼してるんじゃないかな?」


 チーネはというと、この話を聞いて両手で頭を抱えている。

 …何にせよ、釘を刺せたのは良いことか。

 まぁ、逃げた所で追跡するまでだが…グリンが。


「じゃ、大丈夫そうでござんすね?安心してチーネさんに頼りやしょう」

「だね!じゃ、チーネよろしく!僕も寝るから」


「リンカさんも、今度こそ寝るのでござんすよ?二度寝は気持ちいいってもんで」

「えっ?えっと…、分かりました!じゃあ私も寝ますから、ちーちゃん後はよろしくですっ」


 三人が言うと、チーネは悶えた。

「ゔにゃああぁぁ!!?」


 少しだけ哀れに思うが、一番元気がありそうなのもチーネだから仕方ない。


 ジューロは言わずもがなボロボロ。

 グリンは血を分けていて少しダルそうだし、リンカも魔力はまだ回復していないように思う。


 ここはチーネに遠慮なく頼ることにして、ジューロは目を瞑り、二度寝を決め込むのであった───


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