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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第二章】王都とギルドと怪盗と
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第四十五話

 場所は戻り、リンカの魔法でジューロとチーネを飛ばした直後の産業ギルド───


 リンカが怪我人を魔法で癒している間、グリンはラティにこれまでの経緯を説明していた。


 路地裏でチーネが怪盗スパータとして冒険者を襲っていた事。

 その怪盗スパータを追って、何故か都合よく騎士団が路地裏に現れた事。

 リンカがチーネの状態を不審に思い、魔力を見た所。異常な魔力が取り憑いていて、操られている可能性がある事…などをだ。


「───と、いうワケなんです。怪盗の…いや、チーネの件については、リンカさんに事情を聞いて把握してます」


「…ありがと、状況は理解できたわ。うん…、うん。怪盗の事は秘密にしておきたかったけど、リンカが話したなら隠しておく必要もないわね」


 リンカが食堂で話してくれた内容は、本来は一部の秘密にしておくものだったそうだ。

 だが、路地裏の一件からリンカはジューロとグリンの協力も必要だと判断し、話してくれていた。


「えぇと、リンカさんを責めないでやって下さいね。あの場で事情を聞いてなければ…」

「こうやって話すことも出来なかった…でしょ?大丈夫、分かってるわ」


「ありがとうございます。あの、それで姐さんに相談が…」

「協力者が欲しいってとこかしら。チーネのあの力は尋常じゃなかったし」


 ジューロが「魔力によって操られている」と伝えていたことで、ラティもチーネに纏わり付く異常な魔力気付くことが出来ていた。


 操られているだけでなく、魔力によって肉体も強化されているようで、あれを単独でどうにか出来る人は限られているだろう…。


「だけど、ギルドメンバーを向かわせるのは無理ね」

「無理…ですか」


「さっきの騒ぎで野次馬が集まってきてる。大人数で移動するのは得策じゃないわ。本当はフレッドが居たら心強いんだけど、悠長に待ってられないし…」


 ───確かに、野次馬が先程より増えている。


 ギルドメンバーでゾロゾロと移動すれば野次馬も付いてきかねないし、騎士団が駆け付けてくる可能性も高まるだろう。

 そうなれば、内々で解決することは出来ないし、ますます厄介なことになりそうだ。


「だから、私が付いていくわ」

「姐さんが!?」


「私も魔法は使えるし、サポート出来るハズよ?それにね、チーネがああなってしまった事だって、私に責任があるかもしれない」

「いや、さすがにそんなことは…」


 考えすぎだと思った。

 しかし、ラティの申し出は有難い。


「でも、助かります」

「決まりね!少しだけ待ってて」


 ラティはそう言うとギルドメンバー達の方へ走っていき、声を掛けた。

 おそらく何かの指示を出したのだろう。


 ラティが言葉を交わしたギルドメンバー達の数名が力強く頷くと、それぞれがまた動き、ラティの意思が伝播していく。


 それを見届けたラティは、最後にリンカに声を掛けると、引っ張り連れて戻ってきた。


「ラティ姉さん、まだ怪我人が…」

「怪我が酷い人は全員回復できてる、後は任せて大丈夫よ。それにチーネもジューロくんのことも心配でしょ?」


「そ、それは…そうですけど…」

「ウチの連中はそこまでヤワじゃないわよ、安心して」


 リンカが周囲を見渡すと、それに気付いたギルドメンバーの誰もが、こっそりサムズアップしたり、コクリと頷いたりして、声には出さないものの大丈夫だという意思表示を返した。


「ね?大丈夫でしょ」

「は、はいっ!」


「さてと!じゃあグリンくん、さっそく追跡お願いできる?」

「任せてください!」


「遠慮なく、全力で走っていいわよ」

「全力で…って、ついてこれますか?」


 グリンの問いに答えるように、ラティは背中の翼を大きく広げた。

「問題ないわ!リンカ、私にしがみついて!飛んでいくから」

「わかりました!ラティ姉さん、お願いしますっ」


 リンカがラティに抱き付く形でしがみつく。

 なるほど、これなら走るよりずっと速いし、何よりリンカが消耗するのも抑えられるか。


「グリンくん、よろしくね!」

「行きます!ついて来て下さい!!」

 グリンは地面を蹴って駆け出し、ラティもそれに続き、リンカを連れて空へと飛び立っていく。


 ラティ達が飛び去る間、ギルドメンバー達は大声を出しあいながら、出来る限り大袈裟に残りの怪我人の手当てをしたり、野次馬への対処などに当たっていた。


 その甲斐もあり、ラティ達が飛び立ったことに気付く者はいなかった…。

 入れ替わるように戻ってきた一人を除いて───

「姐さんと、あれってリンカちゃんか?どこ行くんだろ」

 空を飛んで行くラティを青い瞳で眺めている人影。

 ギルドに戻ろうとしていたフレッドが、空を仰ぎ見ていた。


「お~い、姐さぁ~ん!俺が帰りましたぁ~!」

 空に向かって手を振り呼び掛けてみるが、声が届いていないのか、グングン離れて行ってしまう。


「うーん?聞こえてないか…っていうか、な~んか嫌な予感がするよなぁ」

 フレッドはカウボーイハットを被り直すと、腰に備えた拳銃の位置を調整し直す。


 距離があり、ラティやリンカの表情こそ見えなかったが、フレッドは彼女達が発する緊迫した気配を感じ取っていた。

 こういう時の予感ってのは当たるものだ。

 万が一を考え、備えておくに越したことはないだろう。


 考えすぎかもしれないが、こういう時は心配したまま帰りを待つより、傍に居たいものなのだ。

 そう考えたフレッドは、ラティが飛び去った方向へと走り始めた────




 匂いを追跡し全速力で駆けるグリンを、ラティは見失わないよう空から追っていく。

 疾走するグリンは想定以上のスピードで、空を飛べるラティでさえ追うのがやっとといった所だ。


 しかし、そのお陰でジューロを飛ばした場所へは早めに到着出来そうである。


 森林公園方面へと差し掛かると、木々が生い茂っていており、目視ではジューロとチーネの居場所は分からない。

 だが、グリンはしっかりと匂いを辿れているようで迷いなく走り続けていた。


「ジューロっ!!」

 突如、グリンが叫んだ────


 どうやら無事にジューロを見付けたらしい。

 ラティとリンカは、空からグリンの周囲に目を凝らす。

 すると暗い中、土煙があがる様子が目に飛び込んできた。


 おそらくジューロとチーネが戦っているのだろう。

 リンカとラティは、互いに目を見合わせ頷き合うと、地上へと降下していく。


 グリンが叫んでいた場所へと降り立った時、バキッ!という音が、背後から響いた。

 ラティ達が慌てて振り返ると、ジューロが大木に体を打ち付けている。


 そこをトドメとばかりにチーネが鉤爪を繰り出すが、グリンの横槍により攻撃が反れ、鉤爪が大木にめり込んだ。

「ジューロごめん!遅くなった」

「とんでもねぇ、助かりやしたよ───ぬわっ!?」


 チーネが、めり込んだままの鉤爪を力任せに横に薙ぎ払うと、大木の約半分程が抉り斬られた。

「グリン、チーネはいくつか隠し武器を仕込んでおりやす!注意を」

「わ、わかった!…足先とヒジかな、金属の臭いがそこから───っとぁ!?」


 グリンの嗅覚は見事で、的確に隠し武器の位置を看破してみせる。

 隠し武器の場所さえ分かっていれば、攻撃の仕掛け方も何となくだが予測できた。


 チーネの動き出しは鋭いが、ジューロとグリンは怯まず、取り押さえようと果敢に飛び掛かる。

 だがチーネは柔軟な動きで、ヌルリとそれらを躱してみせた。


「ぐぬぅ、厄介でござんすな。捕まえられねぇ」

「なんとか動きを止めたい所だけど…」


 一息つく間もなく、チーネが再び距離を詰めてきて攻撃を繰り出してくる。

 とはいえ、一人で相手をしていた時と違い、攻撃が分散しているお陰で少しだけ策を練れる余裕が出ていた。


「前のように、あっしが一撃入れたら止まりやせんかね?リンカさんが居るなら回復も…」


「ダメですっ!」

 ジューロの提案をリンカが拒否する。


「ちーちゃんは前のダメージを負ったままのハズです!操られてるから動いてるだけで、あの時の怪我が悪化してる可能性だって───」

「うぅむ、なるほ…どぁっ!?」


 今まさに元気一杯に襲ってきているから忘れていたが、チーネに一撃を加えた時、ひどく悶え苦しんでいたのを思い出す。

 手加減したつもりだったが、状態は分からないし、今度攻撃を加えたら致命傷になるかもしれない。


 結局の所、なんとか組み付く他ないのだ。


 しかし、ジューロには一度抑えられた事があるからか警戒しているのだろう。

 チーネはヒット&アウェイを繰り返し、組み付く隙さえほとんど無くなっていた。


「ジューロ!僕が真っ向から受けてみるよ」

「し、しかし…」

「このままだと消耗するだけで不利になる一方だ。体力がある内に、イチかバチかでも」


 グリンも膂力は弱くはない、むしろ強い方だ。

 かろうじて攻撃を受け流せているのも、グリンに力と技術…両方あっての事だろう。


 だが、あの異常なパワーを真っ正面から受けた場合、グリンといえども無事に済むとは思えない…。


「ぐ、迷ってる暇はねぇか…」

「うん、チャンスはたぶん一度きりだ。あれをまともに受けたら動けなくなるだろうから、抑えるのはジューロ任せになるけど───」


「二人とも待って!その役目、私が引き受けるわ」

 グリンが覚悟を決め、ジューロもそれに乗ろうとしたが、ラティが二人を制止した。


「「姐さん?!」」

「心配そうな顔しないの!肉体強化と保護の魔法を重ねれば、私だって耐えれるハズよ」


「なら、それを僕に掛けてくれれば…」

「人に魔力を付与するのって難しいし効率も悪いのよ、いいから私に任せて!」


 ラティはそれだけ言うと魔力を練り上げ、纏い始める。

「リンカ、杖を少し借りたいんだけど大丈夫?」

「え、えっと…」


「その杖もチーネを助けるには必要な感じかしら?」

「そうじゃなくて、攻撃を受ける役目は私でもいいんじゃないかなって…」


「…リンカは杖術とか使えるの?」

「じょうじゅつ?」

 ラティの言葉に思わずリンカは首を傾げた。


 杖術とは護身術の事だが、おそらくリンカは使えない。

 初めてゴブリンと交戦した時も、リンカは近接戦闘にまるで対応出来ていなかったことをジューロは覚えている。


「うん、やっぱり私が受け手になるわね…。気持ちだけ受け取っておくから、チーネを助ける準備だけしておいて」

「えぁ…っ、分かりました」


 ションボリするリンカから杖を受け取ると、ラティはジューロ達に声を掛けた。

「二人とも!チーネが私に向かって攻撃するタイミングが必ずあるわ、私がソレを受け止めるから…その後はお願いね!」


 何か考えがあるのだろう。

 ラティが攻撃を受けることが出来ると言うのであれば、ソレに賭けようと思った。

 このままラチが明かないよりはずっといい。


「分かりました!」

「承知、お願い致しやす!」

 チーネの攻撃を捌きながら二人が返事をすると、ラティはそれに応えるように両手で杖を構え、魔力を込め始める。

 さらにラティが目立つように、魔力の翼を広げると、チーネがピクリと反応を示す。


 その時、隙が生まれるかと期待して身構えたのが逆に良くなかった。


 チーネは一瞬の隙をつき、ジューロとグリンの頭上を飛び越えると、二人には目もくれず、ラティの方へと駆け出してゆく。

「あっ!?」

「うっ!?」


 不覚をとった、情けない。

 だが反省は後だ、出遅れるほど致命的になりかねない。

 ジューロとグリンは身を翻し、チーネを追走するのだった───


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