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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第二章】王都とギルドと怪盗と
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第三十五話

「みんなお疲れ様。おかげで余裕を持って終われたよ、本当に助かった」

 仕事を終えた農民達が、労いの言葉を掛けてくれる。


「こんなに早く終われたのも、ギルドの人が来てくれたからだねぇ~。ありがとうねぇ、フレッドちゃん」

「礼には及ばないですよ、感謝はこちらこそです。こうやって仕事を依頼してくれるから、俺たちのギルドも回るんですから」


 普段はおちゃらけた様子を見せるフレッドだが、こういったやり取りはいつも真摯に行っている。


 フレッドはギルドに来てから半年ちょっとの新入りとのことだが。

 ギルドマスター代理のラティに拾われて以降、ギルドやこの国の事を真剣に学び、ギルドの人達だけでなく、仕事相手からの信頼も得るまでになっていた。


 そんなフレッドと農民達の会話を尻目に、ジューロはリンカを探し、声を掛けるべく、辺りを見回していた。


 リンカがイゼンサ村から離れてしばらく経っている。例の件もほとぼりも冷めた頃合いだろうし、村へ戻ることに問題はないように思う。

 だが、それはジューロ個人の考えであって。リンカがどうしたいか、どうするのかを相談し、話を聞いておきたいのだ。


「ジューロさん、どうしたんですか?キョロキョロして…」

 ───不意に背後からリンカの声が聞こえてきた。


「ぬぉっ!?…リンカさん、ちょうど良かった。探してた所で」

 ジューロが慌てて振り向くと、そこにはリンカとグリンが立っていた。


「私を?」

「うむ!今後の事について、色々と話をしておきてぇので。今、良うござんすかね?」


 キョトンとするリンカの横で、グリンが目を丸くして、耳と尻尾をピンと立てる。

「あっ、これって僕は外した方が良い感じ?」


「うむ?なにゆえ??別に秘密の話でもありやせんけど」

「そ、そうなのか」


「リンカさんを家に帰す話でござんすから」

「えっ?どゆこと?」

 今度はグリンがキョトンとした。

 説明を省きすぎたから、そうなるのは当然かもしれない。


「あの、ジューロさんは私が居たらご迷惑なんでしょうか…」

 言葉を略しすぎたのが災いしたのだろう。

 意味を勘違いされたようで、リンカも悲しそうな声で聞き返してくる。


「…あっ、いや違っ───」

 ジューロは慌てふためいた。言葉が足りず誤解を生んだと思ったからだ。


「いや!あの、ホラ!なんというか。リンカさん、母親の墓参りに行けてねぇでしょう」

 リンカが顔を手で覆い、うつむくのが見え。ジューロはしどろもどろになりながら説明しはじめた。


「あっしがリンカさんを連れ出して、思った以上に長く家をあけさせてしまっておりやすし」


 リンカがジューロと行動を共にしているのは、イゼンサ村の一件で色々あり、ジューロがリンカを拐ったという建前が一つある。

 だが、どちらかというとジューロの故郷探し───その手掛かりの為、王都までの道案内をかって出てくれたからという理由の方が大きいだろう。


「それに、あっしに連れ出されるまでは、母親の墓参りに足しげく通っていたでしょうから、それも気掛かりなので…。色々とリンカさんは、自身の事を後回しにするクセがありやすから、あっしとしては───」


 少し早口で話すジューロだったが、リンカの様子が少し違うことに気付いた。

 顔を覆ってはいるものの、肩を震わせ微かに笑い声が漏れている。

「ぷふっ!…うふふふっ」


「リ、リンカさん…?」

 どういうことだろうと、グリンに訊ねようと視線を移すと、彼は苦笑いをして返した。


 さすがに怪訝に思い、ジューロはリンカの顔を覗き込む。

 そんなジューロと目が合って、リンカは笑ってしまい、楽しそうに返した。

「あははっ、冗談ですっ!ジューロさん。そういう意味で言ったんじゃないってことは、ちゃんと分かってますから」


「か…、勘弁しておくんなさい…」

 ジューロはガックリと項垂れた。


「ご、ごめんなさい。反応が可愛くてつい…」

 それをリンカも悪いと思ったようで、申し訳なさそうに謝ってくる。

 怒る所なのかもしれないが、それよりも安堵する心が勝って、ジューロ胸を撫で下ろしていた。


「ぬぅ…、というか。グリンも気付いていたなら教えておくんなせぇよぉ…」


「いやぁ、ごめんごめん。僕もどうかなと思ったけどさ。あまり酷い時はちゃんと止めるつもりではいたから…。でもリンカさん、こういう冗談は今回きりにしとこうね。狼少年の話みたいにさ、やり過ぎると信用されなくなっちゃうから」

「うぅ、すいません...」


 狼少年の話が何なのか、ジューロには分からなかったが。狼少年と言うくらいだから、たぶん何か獣人の話なのだろう。

 内容は知らないが、リンカもグリンに言われてションボリしているし、これ以上は良いと思った。

 それに、リンカなりに冗談を言える友達くらいには思われているだろうことは、ジューロにとって少し嬉しいかもしれない。


「良うござんすよ、もう気にしておりやせんから。それよりリンカさん、話を戻しやすけど、家に帰るのはいかがしやすかい?」


 仕事の兼ね合いがあるから、今すぐにというワケにはいかないだろうし、魔法の使えるリンカがいきなり居なくなると困るのは間違いないだろう。

 そこは後でラティに相談しておくとして、まずはリンカの意向を聞いておこうと思った。


「でも、ジューロさん。まだ故郷の手掛かり見付かってないですよね…」

「気に掛けてくれるのは、嬉しいのでござんすがね」

 今はリンカの話をしているにも関わらずこれである。


「それに、ちーちゃんとも連絡がつかなくなったのも心配ですから…」

 リンカは自身の事を後回しすると、苦言をていしたそばから他を気に掛けている。


 本当に、どうしたらリンカ自身の事も考えてくれるだろうか。そんなことを考えていると、グリンも話に入ってきた。

「リンカさん、自分の事も考えた方が良いよ?確かにチーネと連絡がつかなくなったのは気になるけど、彼女は僕が探しておくからさ」


「でも───」

 グリンの話を聞いても、リンカはソワソワして迷っているようだ。

 彼女の気持ちはなんとなくわかる。


 ───ジューロが図書館に手掛かり探しに行く時、リンカやグリンも手伝いに付いて来てくれていた。

 チーネはよく図書館に顔を出していたこともあり、彼女と遭遇した時は、そこで二人はよく話をするようになっていた。

 そんな友人が音信不通になったのだ、冒険者が行方不明になる事件の事もあるし、騎士団に捕まった可能性だってゼロではない。

 それが気になるのだろう。


 このままリンカの家に帰る段取りを取った所で、心ここにあらずのままになるのではないだろうか。

「ふぅむ、ならばチーネさんの事。ちゃんと探してみやしょうか」


「いいんですか?」

 ジューロの言葉に、リンカの表情が明るくなる。


「良いもなにも。帰るにしても、すぐにというワケにもいかねぇでしょう。姐さんに休みの相談もしつつ、チーネさん探しをすれば無駄が無ぇと思いやす。なので、グリンが良ければ一緒に探しやせんかい?」

「うん、そういうことなら三人で探そうか!杞憂とは思うけど、僕も久し振りに顔を見ておきたいからね。念のため」


「はいっ!ありがとうございますっ!」

「ハハハ、お礼を言うなら僕の方だよ。二人ともありがとうね」

「いやぁ、あっしは…チーネさんにお願いしてた吟遊詩人さんと、会えるかどうかの件も気になるだけでござんすから───」


 二人のように良心からではなく、ジューロはどちらかというと打算に近いので、真っ直ぐに感謝されるのは何となく気が引けた。


 そんな最中、農民達との話を一区切りしたフレッドが、興味深そうにジューロ達に声を掛けてくる。

「───ん、どうした三人とも。ひょっとして、もう遊びに行く相談でもしてるのか?」


 今回の農作業も一段落したこともあり、ジューロたち三人は明日から少しだけ休みになるのだが。どうやらその休みの段取りをしていると思われたようだ。


「いやぁ、調べものをしに出掛けようかと話をしておりやした」

「あー!それか。でも、もし皆で遊びに行く時は俺も誘ってくれよ?」

「うむ…?それはもちろんで。しかし、フレさんとはよく遊びに行ってるじゃあござんせんか」


 ギルドで働き出してからしばらくして、フレッドの事はフレさんと気軽に呼ぶようになっていた。

 雑魚寝部屋の同室ということもあるが、休みの日にはグリンを含めた三人で遊びに出かけることが多かったし、それを改めて言われると少し引っ掛かりがある。


「あぁ、リンカちゃんも含めた場合って事だよ…。最近の姐さんは働き詰めだし、彼女を遊びに連れ出す口実が欲しくてね…。まぁ、そんなワケだ」

 フレッドの口振りからして、一人で何度か誘ってるのだろう。


「なるほど、分かりました!もし、そういう予定が出来たら僕がフレさんにも教えますよ。二人とも良いかな?」

「うむ、あっしは構いやせんよ」

「はいっ!私もですっ」


「ありがとうな、助かるよ。そっちも色々と予定もあるだろうからさ、頭の片隅にでも置いといてくれればいいから」

 フレッドはそれだけ言うと、また農民達の元へと戻って行く。


 ジューロ達もそれを見送った後、今後の行動を決め、まずはチーネを探すことにし、明日改めて図書館を訪ねることに決めるのだった。



 ───そして次の日。

 図書館の開館時間に合わせるように身仕度を済ませ、ジューロ達三人はギルドから出発していた。


 総合産業ギルドは、その仕事内容から平日に休みになることが多く。一般的な暦の休日とは重ならない。

 その為、人通りは比較的落ち着いており、人混みが苦手なジューロも安心して出歩けてありがたかった。


 図書館に到着すると、まずは司書のミルフィーを手分けして探すことにした。


 ミルフィー───彼女は、チーネを同居人として迎え入れていたのだが、ある時からパッタリと戻ってこなくなったチーネのことを心配している。


 図書館に訪れたのは、そんなミルフィーにチーネが戻ってきてないかどうか、念のため確認するつもりだからだ。


 手分けして探し始めてからしばらくし、リンカの声が聞こえてきた。

 ───同時に、男の声も聞こえる。

「───あのっ、困ります…。急にそんなこと言われても…」

「頼む!その腕輪…ほんの少しで良い!貸して欲しいんだ!」


 なにやらトラブルがあったようだ。

 ジューロはミルフィーを探しをいったん切り上げ、リンカの声がする方へと向かうのだった────

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