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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第二章】王都とギルドと怪盗と
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第二十七話【ギルドを追い出された理由】

 窓の外を見ると、日が沈みかけているのか、薄暗くなってきている。

 そんな中、ジューロは司書さんが閉館の準備を始めたことに気付き、リンカ達に声をかけた。


「リンカさん、グリン、そろそろ日が沈みやす。そろそろ戻りやしょう」


 ジューロにそう言われると、二人は図書館に備え付けられている壁掛けの時計を見てハッとする。

「あっ、もうこんな時間か…」

「ん、そうですね!そろそろ帰りましょうか」


「えー?もう帰っちゃうの?」

 まだまだ話し足りないといった様子でチーネが言うが、都市とはいえ、夕暮れを過ぎてしまえば道は闇に包まれ、帰ることも一苦労するだろう。


「はいっ!仕事の予定とかも聞いておかなきゃですから。チーネさん、今日は色々な話が聞けて楽しかったです」


「うぅむ…。後半ほとんどチーネさんの愚痴ばかりでござんしたが…」

「ハハハ、それはホントにね」


 ジューロとグリンが思わず苦笑いを浮かべる。

 チーネから聞かされた愚痴はというと、ギルドを追い出される迄の話であった。



 その話すべてを真に受けていいのか分からないが、かいつまんだ内容はこうだ───


 産業ギルドの仕事の兼ね合いで、チーネ達が農業区域を治めている貴族の屋敷へ行った時のこと…。


 女神の使いイコナが突如そこに現れて、貴族に対して何かを説き伏せようとした事が発端で、事件が起こった。


 イコナが放った言葉が貴族の逆鱗に触れたらしく、そこから口論に発展した…と。そこまでで済んだならまだ良かったのだが。

 問題はその貴族に対し、イコナが一方的に攻撃を加え屈服させる方法をとり、貴族に重症を負わせたことにある。


 さらに、その時イコナが発した『アンタ死にたいの?』という言葉…。


 その言葉を聞いた瞬間。脅しではなく、本当に殺すつもりだった事に気付いたチーネは、思わず飛び出してしまい。イコナをぶん殴ってしまった…。


 イコナはいわゆる権力者であり、それを殴ったとなれば、監督不行き届きとしてギルドへの責任も追及される流れになる可能性が高い。

 それを危惧され、チーネはギルドから追い出された…。


 ────と、いうのが事の顛末らしい。


 イコナとやらが貴族に対し、何を言ったのか分からない以上。口論の内容においては、どちらが正しいのか判断がつかない。


 …だが、それを考慮しても。チーネの話が本当なら、気軽に他者を傷つけ、蹂躙することが出来るイコナとやらは、相当な危険人物であるように思えた。



「さては信じてないでしょ!?本当に大変だったんだからね!」

 苦笑いをしているグリンとジューロに、チーネは不満そうに口を尖らせる。


「あっ、そうだ。…リンカさ?かしこまらなくていいよ、私のことはチーネって呼び捨てにしていいから!」

「え、えっと…。うん、ありがとうチーネ…さん」

「もー!さん付けとかいらないから」


「ハハハ。チーネを呼び捨てしにくいならさ?『ちーちゃん』でいいんじゃない?」

 チーネの勢いに呑まれかけているリンカに、グリンは冗談半分の提案をした。


「はっ、はいっ!じゃあ…ちーちゃん!改めてよろしくです!」

「ちーちゃんって…。んまぁ、いっか!にゃははっ、ヨロシクね!」

 ちーちゃん呼ばれたチーネは、最初こそ困った顔を見せたものの、リンカの素直な反応は気に入ったらしい。


「ハハハハ、ちょっとした冗談のつもりだったけど、それでいいんだ?」

「ふーんだ、こっちの勝手でしょ!」

笑うグリンに対して、チーネは少し拗ねたように答えるが悪い気はしていないのが見てとれる。


「ふふ……さて、と!じゃあチーネ、僕らそろそろ帰るよ。久しぶりに会えて嬉しかった」

「えっ?…うん、分かった。皆またね!…あっと、そうだ」

 チーネが手を振りかけた時、思い出したようにジューロに声をかける。


「えーと、なんだっけ?そうだ、ギンちゃん!…じゃなかった、吟遊詩人を探してるんでしょ?」


「うむ、左様で。図書館にはちょくちょく足を運ぶつもりでござんすが」

「じゃあ、ついでだし!私がギンちゃんに会った時、探してる人がいるって伝えておこうか?都合がつきそうなら会える日程くらいは聞いとくからさ?」


「本当でござんすか!?かたじけねぇ…、助かりやす!」

「それくらい良いよ。一応聞いておくけど、どんな用なの?」


「へぇ、日ノ本という国を探しておりやして。吟遊詩人さんに、その国の心当たりでもあればと…」

「ヒノモト…?ふーん、よく分かんないけど…私が覚えてたらそれも伝えておくよ」


「ありがとうござんす!」

 この提案はジューロにとって、本当に有難かった。

 グリンも集落の件を訊ねにチーネには会いに行くという話だし、都合がついた時は連絡も比較的容易く出来るだろうと思った。


 そうなれば、吟遊詩人という方と早く会えるかもしれない。

「次に僕がチーネと会う時、都合がついてるといいねジューロ」

「うむ!チーネさん、お願いいたしやす!」


「ふふん、任せてよ!」

 どや顔で胸を張るチーネに、ジューロが頭を下げて礼をすると、リンカとグリンの二人もそれぞれ別れの挨拶をチーネと交わし、共に図書館を後にした。



 図書館から外に出ると、日は既に沈んでいて夜空が広がっていたが、どうにも明るい───


 不思議に思って周囲を見渡すと、まだ店も開いている所が多く、そこから光が漏れている。

 街灯だけでなく、光る看板のようなものもあり、夜に差し掛かるというのに人通りもかなり多く、活気に満ちていた。


 夜道のことを心配していたジューロに対し、リンカとグリンが『王都なら大丈夫』と言っていた意味がようやく分かった。


 どういう理屈で光っているのか不思議で、そんな色とりどりに輝く王都に圧倒されていると、リンカが口を開く。

「ジューロさん、グリンさん。調べたい情報は図書館になかったですね…、すみません」


「ぬ?…いや、そんなことありやせんよ」

「そうそう!図書館に来たからチーネや司書さんとも出逢えたし。今日ここに来れて良かったよ」


「うむ!あっしの方こそ礼を言わねばなりやせん。ありがとうござんす、リンカさん」

「僕もだね!ありがとう」


「ふぇ!?…あの、そんな。それは偶然ですし」


「ここに来なければ偶然すら起こらなかったでござんすよ。うぅむ…しかし、あっしこそ助けられてばかりでござんすからねぇ…」

 王都へ着くまでの道中も、王都に来て故郷へ帰るためにすべき事の道しるべも、リンカとグリンの二人に頼りきりになってしまっている。

 いずれこの恩義に報いたいとジューロは強く思った。


「ところで、夕飯はいかがしやしょうか?…動いてなくてもお腹はすくもんでござんすなぁ」

「ハハハ、頭を使うだけでも疲労は溜まるから仕方ないさ」

「あっ、なら帰ったら私が何か作りましょうか?キッチンを借りられたらですけど」


「えぇ…?今日は色々ありやしたし、リンカさんもゆっくり休んだ方がよござんすよ?」

「そうそう、気持ちは嬉しいけどね」


「む~…私、料理するのって楽しみなんですよ…」

「そうなので?そりゃあっしもリンカさんの料理は好きでござんすが…。いやしかし、出来ることなら三人でいるうちに相談しておきたい事がありやして」


「相談ですか?」

「ジューロから言ってくるの珍しいね、なんだろ?」


「うむ、姐さんが騎士団に言われていたでござんしょう?『チーネを捕えるように』と…」


「「あっ!」」

 二人とも忘れていたのか、それとも秘密にしておくつもりだったのか分からないが、ハッとして声を上げる。


「姐さんに、チーネさんを見掛けたことを報告すべきかどうか、報告するにしてもどこまで話すべきか。あっしは頭が良くねぇんで、二人の考えも聞きたいのでござんす」


「…うん、その件は僕も思うところはあったからね。リンカさんもそれでいいかな?」

「はいっ!そういうことなら!」

「うむ、決まりでござんすな!…ところで、グリンの毛が結ばれたままなのは、如何しやしょう」


 ジューロとリンカの視線がグリンに集まると、困ったような反応でグリンは呟いた。

「えっと、行く前にこれ…ほどいてくれると助かるかな…」



 食堂に到着すると、昼間とは違った雰囲気であった───

 店内の光が日光ではなく、火のそれとも違う光源で明るいからそう見えるのか。それとも客層が昼とは違って、酒を酌み交わす大人が増えているからそう感じるのか…それはさだかではないが、良い雰囲気の場所に変わりはないようだ。


 さっそく三人は、食事をしながらチーネの事についてどうすべきか相談しあう。


 とりあえずチーネを目撃した事。それ自体はラティ姐さんに話を通し、出会った場所や居所については伏せておく…。

 という方向で、話を持っていくということに決まったのだった。


「───で、よござんすかね?」

「はいっ、ラティ姉さんは信用出来ると思ってますけど…」

 リンカが言うように、あの人はリンカの友人でもあるし、信用しても大丈夫とは思うが。万が一の事もある。

 なので、全てを伝えるかどうかは、今回の報告でラティの反応を見てから判断しても良いだろうと思った。


 この件で、もしチーネの身柄を確保して欲しいという事になれば…。その時はその時に考える他ないだろう。

 ジューロ達は食事を済ませると、その足で再びギルドへと向かうのであった───

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