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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第二章】王都とギルドと怪盗と
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第十七話【ギルドまでの道中】

 しかし、十朗の心が躍っていたのも束の間だった───


 王都の中心地に近付けば近付くほど、人通りが多くなるだけでなく。

 都市の情報量が洪水のように、十朗の頭では理解しがたい者や、物で溢れていたからだ。


 まず、目に入って驚いたのは、空を飛ぶ人の姿であった。

 三度笠を目深に被っていたことと、遠目に見ただけでは鳥にしか見えなかったので、気付くのが遅れたのだが。背中に翼を生やした人達が、空を飛び交っている。


 建物も小高く、道は石畳で敷き詰められており、見たこともない建造物もいくつかあって、これまで訪れた村とは全く違う様相を呈していた。


 十朗は田舎者であるし。故郷の日ノ本では、江戸や大阪、京のような都市に足を運んだことすらない。

 だから、都に慣れていないのもあるのだろうが、道行く人の多さにも圧倒され、軽い目眩を覚えた。


「うぅ…それにしても。ひ、人が多すぎじゃござんせんかね?」


 人に酔うとはまさにこのことなのだろう。

 リンカに先導してもらい、初めは物珍しさからくる楽しさもあったのだが。

 今は感動よりも、気疲れが勝っている。


「そうかな?…ま!村とは比べ物にならないけどさ。…ジューロ?大丈夫かい?」

「ジューロさん、大丈夫ですか?」


 どうやら気付かぬうちに、疲労が顔に出ていたようだ。

 リンカとグリンが顔を覗き込んでいて、心配そうな顔を見せている。

「な、なんとか…。こういう所に来るのは、なにぶん初めての事でござんすから…」


「あの、少し休みましょうか?」

「そうだね。広場がそこだし、一息入れておこうか」

「め、面目ねぇ…。痛み入りやす…」


 十朗は二人の厚意をありがたく受けることにした。


 広場には、出店のようなものがいくつか並んでおり、色んな人々が集まっていて賑やかだ。

 その広場に設置されている長椅子で休むことにして、三人で腰掛けると。十朗は竹の水筒で軽く喉を潤した。


「落ち着きましたか?ジューロさん」


「…お手数をお掛けしやして申し訳ねぇ、もう大丈夫でござんす。情けねぇところを見せてしまいやした…」

「いやぁ、仕方ないよ。ジューロは都会に来るの初めてなんだろ?」

「人混み…苦手なんですか?」

 二人に心配を掛けてしまい、情けない気持ちであったが、頭の中を整理するために、色々と訊くことにした。


「それも少しありやすけど、ワケの分からないものが多すぎて混乱しておりやす。…あの空を飛んでいる人達とか、何でござんしょうあれ?天狗か何かでござんすかい?」

 空を仰ぎ見ると、やはり、翼を持った人達が飛んでいる。

 …幻覚や夢ではないようだ。


「て、天狗?…ん~、それが何か知らないですけど、あの人達も獣人さんですね」

「鳥の特性を持ってる【ローク族】って言うんだ」

 十朗が向けた視線の先を追うように、リンカとグリンも仰ぎ見ると。さも当然といった感じで、二人が説明をしてくれた。


「凄いでござんすなぁ…人が空を飛ぶって」

 語彙力などはないので、言葉にするのも難しかったが、素直に羨ましく思う。

 十朗も空が飛べたなら、読んで字のごとく、故郷まで飛んで帰ることが出来たかもしれないと、現実離れした事を考える。


「えっ?人も空くらい飛べますよ?」

 リンカがサラリと、とんでもない事を言い出した。


「ぬぅ??」

「確かに、魔法が使える人は飛べるって聞いたことがあるな」

 グリンも捕捉するように続けて言う。

 どうやら冗談を言っているワケではなさそうだ。


「えぇ…?じゃあリンカさんも空を飛べるのでござんすか!?」

「あっ、いえ。私は飛べないですよ~!そこまで魔法の訓練はしてないですから!」

「ふぅむ、左様かぁ…。訓練すれば飛べるのでござんすかぁ…」

「はいっ!」


 明るく元気に答えるリンカを横目に、とんでもない国に流れ着いたものだなぁと改めて思った。

 いや、もしかすると十朗の故郷がおかしいだけで、魔法とやらが使えたり、獣の顔を持った人間がいたりする方が当たり前なのかもしれない。


(これって、当たり前なのでござんすかね?)


 なんだか余計に混乱してきたが、それでも二人と話をしたことで、気分だけは少し落ち着いてきた。

 そして、落ち着いてきて気付いたのだが。道行く人が十朗達に、視線をチラリと向けては通り過ぎていく。


 ───知らぬ間に何か無作法でも働いただろうか?


「ところで、二人とも。何やら色んな人に視線を向けられてる気がするのでござんすが…」

 不安に思い、二人に小声で訊いてみると、二人も小声で返してくる。


「たぶん、ジューロの服装が珍しいんじゃないかな?この国では見掛けない格好だし」

「そ、そんなに変でござんすかね?」


「私は慣れちゃったから良いですけど。正直に言っちゃうと…変ですねっ、被り物も面白いですから…」

 ヒソヒソ声ではあるが、どことなくリンカが楽しそうなのは気のせいだろうか?


 …ともかく、別に無作法で注目を集めたワケじゃないなら、良かったと思おう。


「ぬぅ、ハッキリ言ってくれやすねぇ?まぁ、変に気を遣われるより良ござんすけど…」

 十朗はラサダ村でも、格好が変だと言われたことがある。

 しかし、そんなに目立つものだろうか?


「でも、どうにも腑に落ちやせんよ。あの人達よりもでござんすか??」

 十朗が納得いかないといった様子で、視線をチラリと、ある方へ向ける。



 ───視線の先には、色とりどりの髪色が目立つ女性が、数名集まっているのが見えた。


 その女性の誰もが、薄布をピタリと体に貼り付けたような格好をしている。

 身体の輪郭がクッキリとしているし。何より露出がとても…とても多い。

 辛うじて身に付けた薄布を保護するように、金属製の装飾品を付けていて、それが露出を少し減らしている程度なのだ。


 そんな集団が剣や杖を持って、買い物をしている。まさかとは思うが、あの装飾品は鎧なのだろうか?

 王都に入ってから、意味が分からない者の一つでもあった。


 あちらの方が目立つのでは?と、心底そう思ったのだが、周囲はまるで意に介している様子がない。

 十朗の視線を追って、リンカとグリンもその女性達へと視線を向ける。


「え~っと、あの人達ですか?」

「…うむ、どう考えても露出がおかしいでござんしょう」

 それだけ言うと、視線をリンカに向ける。

 彼女の質素なローブ姿が、今は十朗に安心感を与えていた。


「そ、そうですか?…うーん、言われてみたらそうかも…?ですね」

「ま!村とかじゃ見掛けない装備ではあるけどね?」

 リンカとグリンも大した反応を示さなかった所を見るに、この国では普通のことらしい。


「さ、左様かぁ…。あれより目立つのでござんすかぁ…?」

「はいっ」

「うん、ジューロの方が目立つね」


 二人の答えを聞いて、十朗はガックリと項垂(うなだ)れた。

 こちらの言葉で言うなら「ショック!」ってヤツだ。

 だが、郷に入っては郷に従えとも言うし、悪目立ちするのはリンカ達に迷惑を掛けるかもしれない。


「…うぅむ、あっし。着替えた方が良ござんすかね?」

「うーん、どうだろ?でも、気になるならさ、僕の服を貸そうか?」

「そいつは助かりやす!…でも、グリンの服は、お尻がスースーするのでござんすよねぇ」


 ラサダ村でグリンの服を借りたことがあるが、獣人の服には尻尾を通す穴が開いていて、お尻が冷えるし。半分ほどお尻が出るのも…若干恥ずかしい。


「ふぷっ…!むっふふ…」

 二人の会話を聞いていたリンカが、肩を震わせ始めた。


「ど、どうかしやしたかい?!具合でも悪いので!?」

「あっ、ごめ…っふ!…なさ…ちょっ、おかしくて…」

「う、うむ?」

「リンカさん、どしたの?」


 よくみると、リンカは笑いを堪えているだけのようだった。


 どこに笑う所があったのか不思議に思い、十朗とグリンは顔を見合わせ、彼女の様子に困惑したのだが。

 元々リンカは変な子だし、体調が悪いワケじゃないなら大丈夫だろうと、彼女の笑いが治まるのを待った。


「あ、あのっ…ですね?ジューロさん」

 しばらく待つと、笑いが少しだけ治まったようで、彼女が改めて話を切り出してくる。


「ん?なんでござんすかい?」

「私は、着替えない方が良いと思いますよ?」


「ふむ?しかし悪目立ちするのも、二人に迷惑かもしれやせんし」

「ん、私は気にしないですけど。グリンさんはどうですか?」


「僕も別に、気にしないよ?」

「うぅむ…」


「それにです!ジューロさんの格好って故郷の服装なんですよね?」

「ええ、左様で」


「じゃあやっぱり、そのままの方が良いと思います。ジューロさんと同じ国の人がその服装に気付いてくれたら、声を掛けてくれるかも知れませんし」

 それは確かに、一理あるかもしれない。


 異国の地で同郷の人を見掛けたら、声の一つくらい掛けてくれる可能性はあるように思う。

「なるほどぉ!リンカさん、賢いでござんすな!」


 思わず手をポンと叩いて感心した。

「えっ?それはちょっと大袈裟じゃないですか?」

「いやぁ、少なくともあっしは気付きもしやせんでしたよ。助かりやす」


「だね。そういう気付きって意外と見落としがちだし、僕もそれは考えてなかったよ」

「で、ですか?ふふっ、なら悪い気はしないです」


 都会の目まぐるしさで、余裕がなかった十朗だったが、この二人が居てくれるのは本当にありがたいことだと思えた。

 見知らぬ土地だが、なんとかなりそうな気がしてくる。


「さてと、あっしも元気が戻りやしたし!え~と、ギルド?でござんしたっけ?リンカさん、案内お願いしやす」

「ん、分かりました!もう少しですから頑張りましょう!二人ともついてきて下さい」


 軽い足取りで進んでいくリンカに続き、十朗とグリンも更に王都の中心地に向かって、再び歩み始める。

 広場を通り過ぎ、商店街らしき場所を通り過ぎ、しばらく進むと、少しだけ開けた場所に出た───



 先ほど居た広場ほどの大きさはないが、こちらには何かの石像が置かれていて、近くに井戸もあり、長屋らしき建物も並んでいる。

 そして、長屋に挟まれるような形で、ひときわ大きな建物がその中央に鎮座し。建物の天辺には、時計台と呼ばれるものが設置されていた。


「あれです!時計台のある建物が目的のギルドです」

 リンカがそう説明してくれるが、グリンはともかく、十朗は時計台というものが分からない。


「…時計台って何でござんしょう?」

「ジューロ?知らないの??」

「えっ!?…あの、ジューロさん。時計くらいは…流石に知ってますよね?」


「時計…。なんか話だけは聞いたことがありやすが、それがどういう物かまでは存じておりやせん…。無知で申し訳ねぇんですが」

「そ、そうなんですか…?」

 リンカの驚きようを見るに、時計というものもまた、当たり前に使われている物なのだろう。


「ジューロ、一番大きな建物があるだろ?」

 グリンがそう言うと、屋根に向けて指をさす。


「うむ!」

「あの天辺にさ、丸い形のものがあって、それに矢印が入ってるのが見えると思うけど…あれが時計だよ」

 確かにグリンが言うような形状のものが建物に貼り付いている。


「僕の家にも時計はあったんだけどさ、気付かなかった?」

「あんなデカい物ありやしたっけ!?」

「ハハハ、いやいや!あんな大きくないけどさ、ウチの廊下の壁に掛かってたんだけど」


 グリンに言われ、記憶をたどってみた。

「むむ?言われてみたら、似たようなものを見掛けた気がしやす」


 大きさはまるで違うが、たしかにグリンの屋敷でも、似たようなものを見た覚えがある。

「だろっ?でも、時計とか知らないなら教えておけば良かったな」

「あっ、なら私が時計の見方を教えてあげますね!きっと必要になると思いますから!」


「本当でござんすか?ありがとうござんす!」


 そんな他愛の無い話をしつつ、三人が目的の建物に近づいていくと、そこに人が集まっているのが見えた───


 何かの騒ぎが起こっているようで、その人だかりの正体は、野次馬だったようだ。

 こういうのには関わらない方がいいのだが、問題は騒ぎの中心地が、十朗達が向かっている場所であるということか。


 仕方なしに近づいていくと、そこでは二人の女性が言い争いをしている真っ只中であった。


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