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風来の奇譚録 ~抗い生きる者たちへ~  作者: ZIPA
【第一章】獣友、共に奮闘す
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第七話【再び森へ】

 

 リンカ達に会う為、掘っ立て小屋へ向かう途中のこと──


 十朗はグリン家の敷地内…その屋敷の前で、村の子供達が集まっているのを見掛けた。


 子供達は屋敷には入らずに、窓の外側から中の様子を(うかが)っていたが、その子供達は十朗に気付くと元気よく挨拶をしてきた。

「あっ、おはよーございます!」

「おはようございます!」


 よく見れば、最初にラサダ村へ訪れた時に出会った子供達だった。

 ピィス達でも遊びに誘うために来たのだろうか?


「おはようござんす!…ピィスさん達に会いに来たのでござんすかい?」

「うん、それもあるんだけど…ボクのお父さんとお母さんも会議に出るって言うからついてきたの!」

「僕も!難しい話は分かんないけどさ、なんか秘密の作戦会議っぽくて…ワクワクするよね!」


 話を聞く限り、好奇心から親に着いてきた面もあるようで、どうやら窓から大人達が会議をしているのを覗いていたようだ。


「うぅ~む、よく分からぬが…見ていて楽しいでござんすか?」

「ううん、つまんなかった!思ってたのと何か違ってたし」

「さ、左様か…」

 何を期待してたのか分からないが、子供とは得てして不思議な行動を取ることがあるものだ。


 …ともかく、覗いているだけなら大人達の邪魔にはならないだろうし、そっとしておこうと思った。


「ところで、お兄さんはここに泊まってたの?」

 十朗がここにいるのを疑問に思ったのか、子供の一人が質問をしてくる。


「あぁ、いや…実は詰所をお借りしやしてね?村から出る前に、世話になったグリンさんに挨拶しようと思いやして…」

 余所者(よそもの)を歓迎していないとの事なので、誤魔化して答えようかとも思ったが、子供達になら正直に言っても…たぶん大丈夫だろう。


「そうなんだ、でもグリンさん…まだ会議してるよ?」

 一人の子供が覗いてた窓を指差すので、そちらに視線を向けて部屋の中を見た。


 その部屋には長机が並列に並べられており、三十名ほどの人々が座っている。

 グリンと似た(よそお)いをした人の他にも、様々な格好の者がいて、レンジャー隊以外にも村人が集まっているのだろうと思われた。


 そして会議をしている彼らの視線の先に…グリンや村長の姿もあり、真剣な表情で何か言葉を交わしている。

「ふむ、確かに…取り込み中のようでござんすね」


「じゃあさ!会議が終わるまで一緒に遊ばない?」

 十朗のことにも興味があるのか、獣人の子供が遊びに誘ってきた。

 ここの村は余所者を歓迎していない…、というのはグリンに聞いた事だが、この子達はそれを知らないのだろうか?


 …後々問題になっても困るし、子供達が(とが)められる可能性だってある。

 そもそも渡世人である十朗と遊ぶのは如何(いかが)なものか。

「うぅ~む…誘いは嬉しいが、ちと先に用件がありやしてね?申し訳ねぇんだが…」


 十朗はやんわりと断る。

 それに昨日の件もあるし、ピィスとソラの様子も気になっているから、それを確認するのが先だろう。

 これは自分の都合だが、彼らの顔を見て安心しておきたいのもあった。



「ジューロさんっ───!!」


 ───不意に背後から声が掛かった、リンカの声である。

 丁度いい助かった、と思った。


 彼女は…何となくだが、子供の相手が得意そうな印象があるし、この場を任せたい。

 渡世人である十朗ではなく、子供達がリンカのような少女と遊ぶなら、そこまで(とが)める人もいないだろう…と思ったからだ。


「おはようござ…」

 そう思って振り返り、リンカに挨拶をしようとしたが、その目に映ったのは、息を切らして汗だくになっているリンカの姿であった。


 彼女の様子から、何かあったのは間違いないだろう…。まさかとは思うが、ピィスが帰って来なかったとかか…!?

 十朗の胸に、一気に不安が押し寄せる。


「ソラちゃんを…っ…見掛けませんでしたか!?」

 肩で息をしながら、リンカが問いかけた。


「ソラさんでござんすか?いや、あっしは見掛けておりやせんが…何があったんで?」

 意外な名前が出てきて、少し困惑する。


「…起きた時、どこにも居なかったんです。私も一緒に寝てたのに…気付けなくて…」

 …なるほど、それでリンカは不安になって村を探し回り、いま戻ってきた所なのだろう。

 しかしピィスはともかくとして、ソラが勝手に出ていくとは思えないのだが…。


「落ち着きなせぇ。用事があって出掛けただけかもしれやせんし、ひょっとしたら既に小屋へ戻っているかもしれねぇでしょう?」


 十朗はそう考え、小屋へと行こうと提案した所、子供達が話に入ってきた。

「小屋ならさっき僕らも行ったけど…誰もいなかったよ?」

「うん、ソラと一緒に遊ぼうと思って」


「うぅむ…」

 リンカが起きて気付いてから、どのくらい時間が()っているのか分からないが…、確かに万が一ということもありうる。


「一つ確認してぇんだが、ピィスさんは見掛けやしたかい?」

 ピィスがソラを連れ出した可能性も考え、リンカや獣人の子供達に(たず)ねてみる。


「誰か見た?」

「ううん、今日は見てないよ」

「ボクも」

 どうやら子供達は誰も見掛けていないらしい。


「…リンカさんは?見掛けてねぇかい?」

「いえ…、私も今日は見てないです…」


「ふむ、…屋敷の中は?」

「……あっ!…まだ見てないです。入っちゃいけないってことしか頭になくて…」

 彼女は顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに(うつむ)く。

 灯台下暗しと言うが、彼女はちょっとばかり、格が違うウッカリっぷりをみせることがある。


 ともかく、念の為にも屋敷は確認しておくべきだろう。

 リンカの考えすぎなら良いが、ソラが何も言わずに出掛けるというのも、妙に引っ掛かるのだ。

「致し方ねぇ、屋敷に入ってきやす。リンカさんは待ってておくんなせぇ」

「わ、私も行きます!」


 屋敷に入って咎められるなら、十朗一人の方が良いし、リンカは置いて行きたいのだが…。問答している時間も惜しい。

 仮に取り越し苦労で…グリンに迷惑を掛け、咎められたとしても、それは最悪の結果ではないだろう。


「分かりやした、一緒に参りやしょう」


 十朗とリンカは屋敷に足を踏み入れると、グリンが会議をしているであろう部屋へと向かって歩いていく。

 外の窓から会議をしている部屋は見ていたので、位置はなんとなく分かった。


 廊下を進んでいき、会議をしている部屋に差し掛かると…その部屋の扉の前で、ピィスが中の様子を(うかが)っている場面に出くわした。


 その姿を見て、十朗は安堵した。

 少なくともピィスはここにいるし…ひょっとしたらソラも屋敷内のどこかにいるのかも知れないと思ったからだ。


「ピィスさん、良かった…いたのでござんすね!」


「えっ?ジューロさん?リンカさんまで!?…屋敷に入っちゃダメだって!」

 余所者が屋敷の中に入って来るのは、ピィスも流石にマズイと思ったのだろう、かなり慌てた様子を見せた。


「そこはちゃんと…、のちほど謝りやす。それより、ピィスさんに訊きてぇことがありやして」

 余裕がなかったのもあるが、十朗は思わず険しい顔で問い詰めるように質問してしまう。


「えっ!?なに??昨日はちゃんと帰りに顔を出したけど…」

 どうやら昨日の約束は守ってくれていたようで、思わず感心した。


「うむ!そいつは偉いでござんす」

「えっ?うん、ありがとう…?」


「しかし()きてぇことは、その事じゃねぇんで…」

 十朗の言葉を聞いたピィスは…じゃあ何だろう?というふうに首をかしげると、続けてリンカがピィスに(たず)ねる。

「…ソラちゃんのこと、見掛けてないかな?」


「えっ?今日はまだ会ってないよ、兄さんに一緒に来てって…頼んでから行くつもりだったから」

「そ、そうなんだ…」

 リンカの表情が曇り、それを見たピィスも怪訝(けげん)な顔をした。


「…左様でござんすか」

 ピィスの答えを聞いてから、十朗は即座に行動に移した。

 会議をしている部屋に踏み入ったのだ。


 これが正しいかどうかは分からないが、今の取れる最善の行動は…一刻(いっこく)も早く、グリンにこの事を相談することだろう。


 会議に踏み入って来た十朗に、集まっていた村人達の視線が一気に集まる。

「だ、誰だ…キミは!?」

「なんだ!?余所者が何でここにいる!」


 ざわめく村人を無視し、十朗はグリンの方へとズカズカと近付いてゆく。

「あ、あのっ!ジューロさんっ!」

「…えっ!?えっ?!」

 リンカとピィスがその行動に面食らう。


「えぇ…?ジューロさん、どうしたの!?」

 グリンもこの行動には困惑したようで、目を白黒させていて、グリンの隣にいた村長も信じられないといった視線を向けていた。


 十朗自身も非常に迷惑な事をしていると自覚しているが、今はどうでも良かった。

「急を要しやす。グリンさん、ソラさんがいなくなりやした」

「は…?」

 頭の整理が追い付いていないようで、グリンが呆気に取られている。


「えぇ?なに…なんなの?」

「ソラって…村長さんとこの子だろ?」

「この人がその子に何かしたんじゃないの…?」

 十朗の発言を聞いて村人達も更にざわめく。


 勘違いや思い過ごしだったなら…それで良い。混乱を生んだなら十朗自身が責任をとればいいのだ。

 …渡世人が責任などとは、鼻で笑われるだろうが。


「恐らくは、森に向かったのではねぇかと…。グリンさん、あっしと一緒に来てくれやせんか?力が必要でござんす」

 グリンに頭を下げた。

 くわしい事情を説明したいが、こういうのを言葉で説明するのは苦手だし、今はとにかく行動した方がいい。


「…あぁ、分かった!行こう」

 グリンは快諾(かいだく)し、一連の話を聞いていたレンジャーと思われる人達も席を立とうと動く。


 ───しかし、それを村長が声を上げて制止してきた。

「ならん!」


「じ、じいちゃん!?」

 ノーザン村長の一言で、ざわめいていた部屋がシン…と、静まり返る。


「恐らく森に行った…だと?何も確証がない以上、人を向かわせる訳にはいかん。それも余所者の憶測で動くなど…もっての他だ!」

「じいちゃん!けど」


「けど、じゃない!レンジャーは村の為に存在する者達だ。個人的な問題に人を割いて…村を手薄にするワケにはいかん!」

 村長は取りつく島も与えなかった。


 言い分ごもっともだ───

 正論であるし、なにより余所者である十朗には何も言い返せない。


「それにグリン、(にお)いで分かるだろう?…もうすぐ雨が降る。臭いは()き消され、捜索するにしても困難になるだろう。視界も狭まる…時間も掛かる。そんな危険な中…ワシらの都合で捜索などは許されん」


 村長の言葉に対し、グリンは何か言い返そうと必死で言葉を探しているようだった。

 レンジャー隊と思われる人達も立ったまま困惑し、動けずにいる。


「なら、それこそ急がなきゃ!」

 村長の話に口を挟んで来たのはピィスだった。


「ピィス、ワシの話をちゃんと聞いておったか?…村を手薄にするワケにはいかんのだ」

 ピィスの言葉を聞いた村長が、(なか)ば呆れたように諭している。

「早く見付けて…帰ってくればいいだけだよね!?」


「そういう問題じゃあない…。何度も言うが、森に行った可能性だけでは動けん。それは杞憂(きゆう)というものだからだ。それにワシは村の外へ出るなと注意はした。…それを無視し森に入って何かあったのであれば、それは自業自得に過ぎんだろう?」


 それだけ言うと、ノーザン村長は腕を組み…動かないぞという意思を全身でピィスに示すように、席にドカッと座って見せる。


「ッ…もういいよ!じいちゃんの分からず屋!!」

 ピィスが部屋を出ていく…、ソラを探しに森に向かうつもりなのだ。


「ピィス───!!」

 グリンが呼び掛け制止するものの、ピィスは走り去ってしまった。


「放っておけ!グリン!どうせすぐに諦める」

 村長は村長で意固地になっているようにも思うが、最早それを気にする所ではなくなった。


「連れ戻して参りやす…。話を聞かれたのは、あっしの落ち度でござんすから。それに、村長さんの言うようにソラさんの事も…取り越し苦労かもしれやせん」


 グリンと村長に会釈をして、その場を離れようとした時…リンカが十朗に話し掛けた。

「あのっ、私も行きます!」


 なんとなく、彼女がそう言い出す気はしていた。

「申し訳ねぇが、リンカさんはここに居ておくんなさい…」


「どうしてですか?人手があった方がいいですよね!?」

「危ねぇんで、あっしも気が気じゃなくなりやす。どうか外には出ねえよう…約束しちゃくれねぇかい?」


「や、約束……出来ませんっ…」

 本当にリンカは何を考えているのか理解できない。

 けれど彼女にも(ゆず)れない何かがあるのかも知れないと、そう感じた。


「気持ちは分かりやすが、早とちりの可能性だってありやすし、村を再び改めることも大切だと思いやす…。リンカさんには村の方の捜索を任せてぇんで…」


「でも…っ!」

 十朗だって早くピィスを追いたい、だが森の中は危険が伴う可能性がある限り、リンカには来て欲しくはない。


「じゃあせめて…来るのであれば、村を探し終えた後。グリンさん達を説得してから一緒に来ておくんなさい。あっしが譲れるのはここまででござんす。…それともこのまま問答(もんどう)を続けやすかい?」


 おそらく村人達の説得は無理だろう、良くてグリンが来てくれるかどうかだ…。それも怪しく思うが、それでリンカを外に出さないなら好都合とも言える。


「──ッ…、分かりました」

 ようやくリンカが折れてくれた、申し訳ないが十朗にだって譲れないものはあるのだ。


「すまねぇリンカさん、…約束を(たが)えるのはナシでござんすよ?」

 リンカに念押しの約束させてから部屋を出ていくと、扉の外──その廊下で獣人の子供達と出くわした。


 どうやら話を聞かれていたらしく、みんな一様に動揺しているのが見て取れた。

「御免なすって…」


 それに構う暇はなく、十朗は全力疾走で村の外へと飛び出す。

 既にピィスの姿は見えなくなっていたが、おおよその行き先はある程度見当がつく。

 向かうはピィス達と出会った場所…その近辺。まずはそこまで、最初に村へと案内された道順を遡ろうと考えた。



 ピィスの後を追いかけ、森に入った時には既に、雨が降り始めていた───

 大降りではないが、地面が泥濘(ぬかるみ)始めている。


 十朗は道を遡り、ピィス達と出会った場所まで来た…が、ピィスの姿は見当たらなかった。

 ───遅かったか…。リンカを無視してでも追いかけるべきだったか!?


 後悔しても始まらない、まずは周囲を見渡してみることにする。

 三度笠(さんどかさ)道中合羽(どうちゅうかっぱ)のお陰もあって、雨もあまり気にならず…いくらか周囲に注意を払いやすかった。


 だからといって、不用意に大声を出して呼び掛けるワケにもいかない。

 とにかく、ピィスの痕跡(こんせき)でもないものかと地面をよく見ると、小さな足跡を見付けることが出来た。


 雨で地面が柔らかくなったお陰だ…、これなら追跡が出来るかもしれない。

 そう考え足跡を辿(たど)り、森の奥へと進んでいくと。そこで目にしたのは、地べたに()いつくばっているピィスの姿であった──


 (まさか、襲われたのか!?)

 倒れているようにも見える姿に唖然(あぜん)とし、足下から血の気が失せるような感覚に(とら)われ、心臓が早鐘を打つ。


「ピィスさん!!」

 大慌てでピィスに駆け寄ると、呼び掛けられたピィスがノソリと体を起こし、こちらに視線を向けた。


 顔と服は泥だらけになっているが、怪我はしていなさそうに見える。

 這いつくばっていた理由は分からないが、無事ならそれでいい。

「ピィスさん、戻りやしょう…ソラさんが村から出たと決まったワケじゃねぇんだ。捜索なら代わりにあっしがやりやすから…」


 ピィスが首を横に振る。

「ジューロさん…。ソラは村から出てる、匂いで分かるんだ…」


「匂いでござんすか…」

 彼らの能力は確かなモノなのかも知れない。

 だが、ここは昨日ピィスやソラも居たであろう場所なのだ。

 だから、十朗にも思いつく一つの可能性をピィスに(たず)ねる。


「そいつぁ…昨日の匂いが残ってるだけじゃござんせんか?」


 その質問に再びピィスが首を横に振った。

「…昨日さ、ソラがお風呂に入った後なんだけど…不思議な匂いがしてたんだ。それが何なのか分かんないけど…その匂いがここまで続いてた…」


 (───不思議な匂い?)


 十朗は昨晩の事を思い返す。

 ピィスが言っていたように…微かにだが、花のようなフワリとした香りをリンカとソラがさせていたように…思う。

「…だから、確実にソラは森に来てる」


「では、既にリボンとやらを見付けて帰った可能性は?」

 そう()うと、ピィスは(ふところ)から朱色(しゅいろ)(ひも)を取り出し、十朗に見せた。


「これ…ソラのリボン、さっき見つけたんだ…。だから、まだ探してると思う…」

 この紐がリボンというものか、なるほど…。

 それをピィスが見付け、ここにあるという事は…まだソラは何処(どこ)かでリボンを探している可能性が高い。

「分かりやした。…なら、あっしも付き合いやしょう」


「嬉しいけど…でも、ジューロさんには関係ないよ。僕のせいでこれ以上、誰かに迷惑かけたくないし…」

 既にグリン達には迷惑を掛けていると思うのだが、それには()えて触れないでおく。


「そうでもねぇさ、ピィスさんには一宿(いっしゅく)の…ソラさんには一飯(いっぱん)の恩がござんす、それを返すってだけなんで…」

 とにかく、ソラが森に入ったことは分かったのだ。今は彼女を見付けるのが先決だろう。


「所で、肝心の匂いは追えてるのでござんすよね?」


「それが…ゴメン。雨で匂いが散って、見失ったんだ。でもまだ…頑張る!」

 ピィスはそういうと、再び地べたに顔を近付ける。

 どうやら這いずり回っていたのは、匂いを嗅ぐ為の行動だったようだ。


 十朗もそれに倣い、何か痕跡の一つでも残っていないかと辺りを見回し始めた。

 村長が言っていたように、雨によって捜索し難くなるのであれば…ピィスだけに頼ってはいられないだろう。

 それに、周囲の警戒もしなければならない。


 ピィスと共に周囲を探索して、(いく)ばくか…。

 焦燥からか長い時間にも感じられ、不安が募り出した時、ピィスが声を上げた。

「ここ…!ジューロさん!匂いを…(つか)まえたよ!!」


「本当でござんすか!?やるじゃあござんせんか、ピィスさん!」

 手掛かりを見付けたと聞き、十朗は嬉々とピィスの(そば)へと駆け寄っていく。


 ──しかし、その喜びとは裏腹に…、手掛かりを見付けたピィスは顔を曇らせながら、地面を見詰めていた。

「…どうしよう、ゴブリンの臭いが混ざってる…。何で…?まさか…」


「ピィスさん…?」


「ジューロさん…どうしよう…。ソラが…連れ去られたかもしれない…」

 ピィスが唇を震わせ、絞り出すように声を出す…。

 その言葉に十朗も、背筋が寒くなるのを感じた。


 降り(しき)る雨に交ざり、ピィスの目に…悔しさの涙が滲んだように見えた───


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