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それでもやっぱりドラゴンで  作者: 桜花らんまる
迷宮と、おにぎり
2/3

勇者様おにぎりってなに?

誤字多いので報告お願いしますっ!

 俺は一度たりとも意図して魔物を倒した記憶がない。それなのにここは死骸だらけだ。つまりはそれを可能とする何者かが先に居るということだろう。


 通路を少しばかり進むと、ドスドスという鈍い音と、男の話し声が聞こえてくる。開けた場所まで出ると、ついに彼らの姿が見えた。


「うーん、これはどうなってるんだ?」


 遺跡の深部でアイツらは何をやってるんだ?男3人、女2人。中央で彼らに蹴られているのは…人間か?魔物が近くまで寄ってきてるのに全く見向きもしない。集団で虐めてるのか?試しに全員鑑定をかけてみるが、だれに対しても同じ結果だった。


ステータス

名前:????=????

種族:?間? 性別:? 年齢:??

称号:??、???

レベル:???

体力:??……??/??……??


 1人だけ「種族:?魔?」が混じっていて、彼?彼女?が中央で蹴られている。?の数は桁数と同じなのか?もしそうならかなり危険だ。体力があと1桁しかない。


「助けないって訳にもいかないよなぁ」


 面倒臭い気持ち6割、恐怖心3割の俺は、残った1割の良心に従って大きく羽を羽ばたかせる。

 迷宮攻略の中でランク(D)からランク(B)まで上昇した“飛翔”は、既に車にも劣らない速さを生み出す。そこに“体当たり(S)”による速度上昇効果と防御力上昇効果が上乗せされる。もはや、ぶつかれば交通事故という表現ですら生温く感じるであろうそれは、真っ直ぐに目標目掛けて飛んでいく。


「いっけえぇぇ!」


 ぶつかる直前、彼らが振り向いたがもう遅い。「勇者様おにっ…」とか言って吹っ飛んでった奴もいたな。なんだろう、勇者様おにぎりとか言いたかったのかな?…なんだそれ、迷宮出たら売ってる?


 意図的に引き起こされた大事故に巻き込まれた者は、1人残らず事切れていた。天井にぶつかり、壁にぶつかり、遂には床の上を転がっていく。背骨は直角に曲がり、顔は潰れている。切っていないので血の雨にはならなかったが、原型を留めない骸が散乱するそこは、まさしく地獄絵図とも言える光景だった。


 人を殺してしまったのだから罪悪感がないと言えば嘘になる。けど、俺に悔いは無い。あの様子だと彼らが人を殺そうとしたのは今回が初だとは思えない。手つきが手慣れていたから。別に俺だって偽善者になるつもりは無いが、目の前で一方的な殺しを観察していられるほど俺はお人好しじゃない。


「一応もう一回鑑定をかけてみるか。今ので俺のレベルも上がったかもだし」



ステータス

名前:オリビア=プロミネンス

種族:竜魔族 性別:女 年齢:26

称号:竜の末裔

レベル:92

体力:6/8430

魔力:84/4071

筋力:9105

耐久力:6208

ユニークスキル:竜化、飛翔(C)

コモンスキル:火魔法(B)、土魔法(C)、剣術(A)



「え?見えるじゃん。てかこの子って竜なの!?やっぱり俺のレベル上がったのかな。それとも鑑定のランクが上がった?どっちなんだろう…て、ぅぉおおう!?あっぶな!」


 後ろから猪が突進してきたので急いで地面を離れる。幸い広間のような場所にいたので、彼女を抱えて飛び立ってしまえばこちらの勝ちだ。スキルを駆使して来た道を巻き返す。どうやら魔物が集まってしまったようで、いくら吹き飛ばしても切りがなかった。火魔法を使おうにも効率が悪い。自分以外に当たれば漏れなく燃えてしまうそれは失敗すると抱えている彼女にとどめを刺す危険がある。仕方がないので、かなり大きめに炎で体を包み、さらに速度を上げていった。

 炎の殻に包まれた俺達はやっとのことで扉があった場所まで戻ってきた。しかし、扉は見つからない。場所を間違えた可能性も考えたが、特徴的な天井の状態からそれは無いと言える。となると考えは一つ。扉は時間が経つと消える、もしくは一方通行という可能性だ。となれば、直ぐに15階層まで戻る手段は無いことになる。


「なんでこんな時に限って扉が無いんだよー。帰りの分も用意してくれてもいいじゃん。俺への嫌がらせか?まさかこれも駄女神の仕業ではあるまいな?」


俺が勝手に失礼な想像を膨らませていると、腕の中で唸り声がした。そこでふと、さっき拝借してきた金貨袋とポーションの存在を思い出した。早めに回復しなければもう命が危ないだろう。


「俺の声が聞こえるか?ポーションを渡すーいや、飲ませるからちゃんと飲めよ」


 返事は不要だ、というより期待していない。この体力では生きている、しかも一時的にでも意識があるだけでも奇跡だと、誰だってわかるからだ。

 少しづつ彼女の口の中へそれを注いでいくと、時折「ゔっ」という声を上げながらも確実に飲み込んでいく。1本分を飲み干す頃にはだいぶ顔色が良くなり、しばらくすると寝息が聞こえ始めていた。


「なんでこんなに可愛い子を虐めるのかなー?それとも可愛いから虐めるの?」


変なことを考える俺を他所に、安心した顔で眠りにつく少女。龍の末裔である彼女は人間より成長が少し遅く、大人の女性というより少女の見た目をしている。整った白い顔に、うっすらと赤みが差し、長く伸びた青い髪からは小さな黒い角が覗いていた。



 覚悟を決めた俺は再び縦穴を上昇していく。段々と要領を掴んできた俺は、重力に逆らったことで生まれる重圧に体当たりのスキルで抵抗しつつ飛んでいく。


「うらぁぁぁぁぁ!」


更に速くなり、音速にも迫る勢いの体は、凄まじい圧の空気を纏い、迷宮の天井など触れることすら許さなかった。破裂音を伴い暗い迷宮から青空へと飛び出すと、久しぶりの太陽が眩しく輝いた。


「ついに脱出成功だー!俺はもう、自由だあー!」




=============


 彼以前の短い手足では少女を運べなかったことに気づくのは、もう暫く先のこと。

 腕の中で寝たふりに徹する少女の、高鳴る鼓動に気づくのは———



ッ!勇者さまっ!

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