駄女神なアイツと、ドラゴンな俺
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果てしなく続く暗い道、左右を挟む岩壁。振り返れば大量の魔物が追いかけてくる。俺がこんなとこに閉じ込められているのは全部あの駄女神のせいだ。
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『異世界で良ければ記憶を残したまま転生できますよ』
『お願いします!』
『スポーン地点がちょっぴり危ない場所で良ければ、ちょっぴり強く生まれることもできますよ』
『ぜひっ!』
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たったこれだけの問答であいつは俺を異世界に放り込みやがったんだ。まあ、俺も浮かれてたよ?異世界とか言われたし。それでもさ、もう少し説明するべきだったと思うんだよ、切実に。絶対いつか再会して文句言ってやる!
そういうわけで俺は今、古代迷宮最下層に居るのだ。当然それと引き換えに俺もちょっぴり強くなっているわけで…
「“ステータス”」
ステータス
名前:未所持(如月=雪那)
種族:幼竜 性別:男 年齢:0
称号:転生者
レベル:19
体力:118/118
魔力:236/236
筋力:194
耐久力:665
ユニークスキル:前世の記憶、ステータス、言語理解、飛翔(D)、火魔法S
コモンスキル:鑑定眼(B)、体当たり(S)、爪攻撃(B)
透明なガラス板のような物にうっすらと光る文字が現れる。指で触ると微かな感触は有っても直ぐに貫通してしまう。板に物をぶつけても何の抵抗もなく通り過ぎる。不思議がって何度か開いて実験したが、謎は深まるばかりだ。
俺は称号「転生者」と、種族「幼龍」の影響で最初から幾つかのユニークスキルを持っていた。生まれつき、ないし称号によって増えるそれと対照に、練習や経験を積むことで能力がスキルとして表示されたコモンスキルがある。スキルになれば忘れることが無いので、元の世界よりも楽というところが大きい。俺がなぜ体当たり(S)なんて持ってるのかと言う話だがー、まあ最下層に丸腰で放り込まれたらそりゃSにもなるってもんだろう。
「この迷宮の魔物がみんな鈍足で助かったよー。常に一撃でも食らったら死にそうだったけど」
魔物の動きが総じて物凄く鈍かった。例えば魔法なら、のんびりと10秒チャージしてから…、という具合に。歩く速度も物凄く遅くて、急いで逃げなくても余裕で振り切れた。それでも物理攻撃はそれなりに打ってくるので、当たりそうになっときは死を覚悟したが…。結局のところ俺って、通路にいるやつを吹き飛ばしながら進んでいただけだからなー。結構な量の魔物の相手をした割にはレベルが全然上がってなかったよ。殺さないと駄目ってことかな。魔法でも使えれば違ったと思うんだけどー…
「だって、火魔法とかSなんだよ?初めて使うのにここでなんて怖くてできないよ!しかも俺の耐久がやたら高いんだよ?そしたらプロレスするしかなくない?でも異世界で魔物とプロレスしてる俺ってどうなのっ!?」
叫んだって魔物が寄ってくるだけでも、これは絶対に叫ばなくてはいけないんだ。だって、遺跡で大爆発なんか起こしたら天井が崩壊するにきまってるじゃん。試し打ちすらしたことないのに使えないよ!?
「はぁぁ、ここがもし平原だったならなー、どんなに楽だったことか…」
そんな愚痴を言いながらも着々と上の階へ進んでいく。蛇だったり、猪だったりが時折り襲ってくるが、全力疾走すれば皆殺しにできるので何ら問題無かった。
「それにしても長いなぁ。今って地下何階なんだ?」
たまに看板っぽいのがあるけど、古すぎて読める状態にあるものは少ない。最後に見たのってスポーン地点にあった「我が古代迷宮最下層へようこそ」だったからな。分かってるのは現在地が最下層から20層ほど上ってだけだ。長い、長すぎる。しかもお腹がすいた。もう火魔法使っちゃおうかな。うん、そうしよう。魔力少ないし、耐久もそこそこあるから大丈夫でしょ!
「えーと…、よくわかんないけど、火魔法えす?」
・・・・・・・・・・・・・・・。
いつまで待っても何も起きない。まあ、そうだよね、何となくわかってたよ。スキルに人工知能は入ってないんだ。そして俺はここまでくる途中で対処法も知ってるぞ。
ステータスを開いて、「火魔法S」の文字を長押しする。
火魔法S:種族「???」の種族特性、あらゆる火魔法を使える。
ー魔力は体全体の血管を流れているよ。まずは知覚、放出してみよう。イメージを乗せると魔法が発動するよ。
おい、ステータス。お前仕事しろよ。『種族「???」』って何なんだ? 今の「幼龍」ってのが種族名でないことは分かってたけど、正解は進化したときのお楽しみってこと?自分のことなのに教えてくれないの?
にしてもこの機能すっごい便利だけど、書いてるのって誰なんだろう、あの駄女神だったら前言撤回だ。あんなやつ褒めてたまるか。
魔法はどこか難しそうだと思ってた俺だったが、魔力云々はとても簡単だった。これもスキルの効果なのかな。
魔力を指先に少しだけ集中させ…と思ったが、そういえば今、四足歩行だったので翼の先にする。そこからそっと魔力を放出して小さな魔力球を浮かべてみる。
「ここまでは順調だ。あとはイメージだが、とりあえずマッチの火あたりでいいか」
急に大爆発とかされても困るので、できるだけ小さな、今にも消えそうなぐらいの火のイメージを送ってみた。
(ボンッ!)
「ッ!?あっつー!、く、ないな。あれ?全然熱くなかったよ。自分の魔力で燃えてるから大丈夫って事かな?」
それなら崩落だけ気をつければ良いんだな。転んだ拍子に床が崩れたこともあるので、ここの床、天井の信頼度は最低レベルだ。
「次はもっと大きい爆発をイメージしてみよっか。そうだなー、水素爆発なんかわかりやすくて良いかも。あ、残存魔力は…よしっ、今ので20ぐらいしか減ってないぞ。
水素と酸素を2対1で混ぜ合わせるイメージを出来る限り遠くに展開する。ざっと50メートルは離れた位置に意識を集中した状態で、最後のイメージを送る。
「着火!」
(…ドドドドドゴーンッ!)
刹那、爆音と共に風が吹き荒れ、天井と床が崩れ始める。こっわ!もう少し近くで起動してたら死んでたよ、俺。実際に天井が抜けて10階層ぐらい上まで繋がってるし。
「ここで光でも差し込んでくれたら綺麗なんだがなぁ……」
何十メートルも上まで開いた穴は、遺跡の岩壁に囲まれている。水を流せば滝、光が差せば綺麗な洞窟に化けるそれは、うっすらと光る不気味な石壁のせいで台無しになっていた。
色々と難はあるけど、崩落と爆風にだけ気をつければ便利なんだよな。これ使ってさっさと迷宮脱出するか。
魔力回復を待っては、天井を壊して上に飛ぶという動作を幾度となく繰り返す。そろそろ飽きてきた頃、久しぶりの看板を見つけた。
『ファンフルドス古代迷宮地下15層へようこそ。この先は、最下層への近道です』
やっとあと15層か。ここまで長かったな。ざっと100階近く上がったんじゃないかな。
看板の横には扉があり、向こうからは何やら話し声がする。気になるな、行くべきか?でもせっかく最下層から上がってきたのに最初からとかだったら嫌だな。うーむ…面白そうだし、行っちゃおっかな!
重厚感溢れる鉄扉には、様々な幾何学模様が描かれている。扉を押すと、ギギギギと錆びで扉が軋む音がした。同時に模様が光ったのだが、その理由はわざわざ調べるまでもなかった。
「なーんか、見慣れた景色だなぁ」
眼前に広がるのは大量の魔物の残骸と、どこまでも続く大きな縦穴。転移門が繋げるのは地下15層と、地下65層なのであった。
基本週末更新です。