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世界は色をもたない  作者: 由稀
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4


息苦しさで一人は目を開けた。


体育館にいたはずの一人の目には曇っている空が見えた。

何が起こったのか確認するために体を起こすが、確認をする前に呼吸がうまくできないことに気付いた。


息が吸い込みにくく、呼吸が浅くなっている。大きく息を吸い込みたくても、肺に酸素が入っていかない。


口が酸素を拒む。


息苦しさはさらに増し、死ぬかもしれないという恐怖で呼吸がさらに早くなる。

ただでさえ、入っていかない酸素をもっともっとと体が求める。


苦しさで四つん這いになり、右手で自分の心臓部分を体操服の上から握る。

左手は指先で地面を強く押し、爪を立てようとする。

少しでも苦しさから逃れたくて、逃す道を指先に求めた。


目の前の白い石が小さくなっていく。

視界の周りを黒で覆われていく。


視界一面が黒になると一人が諦めたその時、一人の髪を誰かが掴み、顔を上げさせた。小さくなっていた視界に真っ黒な目をした女が映りこんできた。


「初めて見る色だな。」


その言葉と共に、一人の唇に女の唇が重なる。


初めての感覚に苦しさも忘れ、一人は目を見開いた。


同時に声を出そうとした開いた唇に自分のものではない舌が入ってきた。

ふっと息を吸うと同時に声が漏れる。舌は一人の舌を捕らえ、戸惑う舌を歯茎に添わせた。


女の唇から唾液が一人の唇に移動する。添わせた舌を通って、唾液は喉に通っていった。

ゴクンと喉が音を出した。


それを確認した女は掴んでいた手を離し、唇も離した。

一人にとって初めて唇を重ね、初めて舌を入れられ、初めて人の唾液を飲まされたキスだった。


ファーストキスの気持ちよさと、思い描いていたキスと違うことへの戸惑いしかないキスだった。

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