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掬い上げた色は
何色なんだろうか
私は何色であって欲しいんだろうか
世界は色を持たない
飛行機雲か。
鹿島一人は空に伸びる雲を見て退屈な授業から空へと意識を飛ばす。
真っ青に澄んだ空に真っ直ぐ引かれていく白い線。
「ここ、テストに出すぞー。」
空へ飛んでいた意識を黒板に戻す。教師が指している文字を一人はノートへに赤ペンで書き込んだ。
周りもノートに書いている独特の音が響く。
高校二年の春。
受験もまだ先のことで、定期テストに力をさほど入れなくても挽回が効く時期だが、定期テストを落とすと補講を受けねばならない。
補講期間中は、部活動を禁止されるので、春の大会に出たい部員はここを落とすわけにはいかないと息巻いていたな、と一人は思っていた。
部活に入っていない一人には試合に出るとか大会があるとかはどうでも良かったが、補講は避けたい。
ため息を薄くはき、また空を見るともう飛行機雲は伸びていなかった。
「授業はこれまで。テスト範囲はまた掲示板を見ること。いいな。」
同時に、チャイムが鳴り響き、授業の終わりを告げた。
途端に教室内、そして廊下がざわつきを見せ始める。
一人は、ノートと教科書を閉じ、筆箱のチャックを閉めた。
「かずー学食行こうぜー。」
廊下に面している窓から自分に声をかけられる。
声のする方に目線を投げると、一人に向けて手を振っている弘樹がいた。
「おう。すぐ行く。晶、お前は?」
椅子にもたれかかり、後ろに座っている黒髪の晶に声をかけた。
バランスを保ちながら、一人の体重を椅子の足二本で支える。
眠そうに目を擦っている晶が頷いたのを確認し、一人は鞄から財布を取り出した。
「ほら、行くぞ。席無くなっちまう。」
まだ動き出しそうにない晶の腕を一人は引っ張り、椅子から晶を立たせた。
ざわついている教室を抜け、さらに大きくざわついている廊下へ進む。
「かず、今日何にするー?」
髪を手直しながら、一人に声をかける。
「んー日替わりなんだっけ?」
学食が近くなると学生はさらに多くなり、ざわつきはさらに増していく。
入り口が見え、今日のメニューが表示されているホワイトボードも見える位置にある。
「あ、日替わり唐揚げだ。俺、日替わりにする。」
「かず、お前マジでよく見えるね。こんな距離から。」
弘樹は関心のため息とともに、一人を称賛した。
「俺なんて、ボードの色しか認識できないのに、目の無駄遣い。」
あくびをしながら晶は一人を見る。
いま、一人たちがいる距離からでは、ホワイトボードの色は認識できるが、書いている文字を読むには距離が遠すぎる。
一人はまぁね。と呟き足を食券が売っている販売機の列に進めた。