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レトロゲーム筐体の墓場

思い出話です。

小学生5年生の夏の日の事だったので1991年の事だと思われます。

少し前に6段ギア付きの自転車を買って貰って近所に住む同級生の友達と一緒に、知らない町まで『探検』に行くのが日課になっていました。

その日は珍しく朝から真っ白に曇っていて、風も全く無い蒸し暑い日でした。その日も午後から友人と二人で自転車に乗って探検に出掛けたのですが、友人が前の晩に父親からオオクワガタがいる森が隣町にあると聞いたと言い、その詳しい場所も聞いてきたというので、その森まで行ってみる事になりました。その森は家から5、6キロの場所で、当時の『知らない場所探検』には丁度良い距離でした。ただ、今では車でしょっちゅう近くの県道は通るのですが、その場所に行くまでの道は、当時の記憶ではガタガタに崩れた白いコンクリート舗装の道で、途中、激狭に4本の石柱が立てられただけの踏み切りを渡らなくてはならなかったのを覚えているので、車でその道に入って行く気にはなれず、現状を確認する事は出来ないです。

当時の記憶では、真上に空が見えないほど左右から鬱蒼と木が迫り来るような、その細いガタガタの道を進んで行くと、急に片側の森の一部が切れて、道沿いに低いブロック塀の壁が現れます。その壁の向こうには小さいながらも白壁に青瓦の洒落た平屋の民家が一軒だけあって、その家、芝生や庭木が植えてある綺麗な庭もありましたが、全く人の気配がしないというか、ろくに道も無いようなこんな場所でどうやって生活しているのか、当時は不安感さえ覚えたくらい静まり返った家でした。

さらに目印の石柱踏み切りを超えて少し進んだ辺りが、友人の父が言っていたオオクワガタのいる森だということで、私と友人はその辺りで自転車から降り、横の森に入って行ったのでした。すると、その森は樫やクヌギの古木ばかりの森でカブトムシやクワガタが集まる場所には違いない場所だと直感しました。実際、森に入ってすぐに、そこいら中の木にクワガタがとまっていて、私も友人も狂喜しました。しかし、私たちはその時二人同時に『焦るな。とりあえず全部見回ってオオクワガタを探そう。』と思って、手前のノコギリクワガタ等は一旦無視する事にしたのを憶えています。そんな感じでどんどん森の奥へと進んで行くと、意外にその森は奥行きが無いようで、少し先は開けているように明るく見えました。子どもの心理だったのか、とりあえず『果て』を確認したくて明るい方へと進んで行くと、そこでいきなり森が切れていて、目の前に空が広がりました。いや、空と言うより、異質な光景が眼前に広がりました。そこにあったのは高圧電線の鉄塔。しかも赤白タイプの鉄塔で、要はその鉄塔を建てるために森が円形広場のようにそこだけ切り開かれていたのです。

ただ、本当に異質だったのはこの鉄塔ではなく、その鉄塔の足元に小高い山のように積み上げられたゲーム筐体。そこは不法投棄の現場だったのです。

インベーダーとかパックマンとかの、昔の型のガラステーブル型の黒いゲーム筐体が物凄い数。当時子どもだったとはいえ、見上げてもその高さにゾッとするくらい本当に『山』と言えるくらいの高さ、数。私も友人もそれを見て言葉もなくただしばらく、呆然と立ち尽くしてしまいました。そんな沈黙の中、空は真っ白に曇っていて息苦しいほどの蒸し暑さ、私はなんだか蝉の声が遠くなったような感覚とともに強烈な耳鳴りを感じて怖くなって、咄嗟に走って自転車のところまで引き返しました。少し経って友人も私の後を追って戻ってきましたが、友人を待つ間も私には『ブオーン、ブオーン』という『捨てられたゲーム筐体の呼ぶ声』が聴こえていて、怖くて堪らなかったです。

今にして思えば高圧電線の電線の音が雲に反射したりした異様な不協和音に過ぎなかったのでしょうが、あの状況は未だにトラウマとして残っている感じで、白い曇り空の日などにはあの日の光景やゲーム筐体の呼ぶ声を思い出して胸が締め付けられるような感じがするときが間々あります。

たまに最近知り合った人などにこの話をすると、「そんなレトロなゲーム筐体って今物凄い価値ありますよ。その場所教えて下さい。」なんて言われる事も多いですが、あの日見た光景には、ヤバイ感じしかしないので教えません。

死に際にでも『レトロゲーム筐体の墓場は実在する』とでも言っておこうかななんて思っているところです。

探してみますか? 我が家の近所です。

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