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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第四章 魔法使いと夏花火

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第77話 日高誠と招かれざる客

 花火大会から二日後。


「納得いって無いんだけど」

 またもや志本が不満そうに訴えて来た。

 ……やれやれ、またこの展開か。

「メイド服のデザインの話か?」

 そう。志本は今、メイド服を着ている。

 俺は黄色い謎の和服衣装の格好だ。

 マス目模様で、お出かけですか? と言いたくなる感じである。


 俺達がこの服装なのには訳がある。

 志本と俺の二人は、体育館の魔法エラーを修正中なのだ。

 体育館の床に発生した魔法ほこりを魔法ホウキで掃除。

 これで魔法エラーが修復出来るらしい。

 相変わらず雑なミッションだ。


 志本はホウキを両手で握り締め、

「違うから! 花火大会の事だよ」

「花火大会?」

 意外だ。……メイド服には不満が無いのか。

「花火大会の何が不満だったんだ?」

 志本が一番楽しんでいそうな気がしていたのだが。


「私、浴衣が着たかった……!」

「そこ!?」

「いつも衣装が用意されているのに、花火大会の時は無かった!」

「ああ、そうだったな」

 水鞠と志本は浴衣で登場するものと、俺も勝手に思っていた。


「火咲さんは着てたのに! ズルい!」

「いや、火咲は関係無いだろ」

「あります!」

 コイツ、無茶苦茶言うな。

「実際にエラー修正してたのは従者達だろ。俺ら関係無いし」

「納得いかない!」

 だからって俺に不満を言われても困るのだが。


「用意されていたとしても、丈の短い浴衣だったかも知れんぞ?」

 志本の場合は基本的に露出が高い格好になるからな。

 長い脚が丸見えのデザインが思い浮かぶ。

「それは嫌……」

「あの日の俺達って、魔法衣装は必要無かっただろ」

「そうかも知れないけどさ」

 志本はまだ不服そうだ。


 俺は衣装を着る展開にならなくて良かったと思っている。

 何やかんやで俺だけ半裸にされるのがオチだ。

 そうなったら完全に事件だよ!

 妹から変態扱いされて家族崩壊だよ!


「あ、水鞠さんからメッセージだ」

 志本が耳に手を当てた。

「またか……」

 スマホ無しでやり取り出来るのはズルいでしょ。

 能力が便利過ぎて水鞠から俺へのメッセージが激減してる。

 これは由々しき問題だぞ。全く。

 

「で、何だって?」

「仕事が終わったら家に来て、だって」

「家? マジで!?」

 俺のテンションを見た志本は驚いた様子で、

「日高、水鞠さんの家に行った事無かったの?」

「無いな」

 正確には魔法の杭の力を借りに、一度だけ入った事がある。

 あれはノーカンでいいだろう。

 屋敷はほぼ廃墟みたいになっていたしな。


「へえ。意外だね」

「俺一人で屋敷に行ける訳が無いだろ」

 水鞠家従者のほぼ全員が俺の存在を否定している。

 そんな状況の今、行った所でボコボコにされるのがオチだ。

 志本は従者のほぼ全員賛成で入部した過去を持つ。

 信頼のある志本が一緒なら俺も安心だ。

「それで、どうやって屋敷に行けばいいんだ?」

 バスに乗って……どれだけ森を歩けばいいんだよ。

「学校にある魔法自転車を使っていいってさ」

「なら余裕だな」


 

 魔法エラーの修正完了。

 俺と志本はそのまま校舎裏の自転車置場へと向かった。

「志本、着替えないのか?」

 何故か志本はメイド服のままだ。

 構内ですれ違う生徒から何度見された事か。

「だって、その方が安全でしょ」

「まあ、確かに」

 魔法衣装は魔法防御力が付与されている。  

 理にかなってはいるが、別に制服でも問題は無い。

 まさか、メイド服を気に入っている……?

 志本的には露出度が低ければコスプレはアリなのかも知れないな。


「ここだね」

 志本が地面を指差した。

 自転車置場の中央。マンホールがある場所だ。

「地下?」

「そう。左足で三回、右足で二回、右手で四回叩いて」

「なるほどな。了解」


 言われた通りにやってみる。

 すると「チャラリラリラ」と電子音が流れた。

 魔法水着の時と同じだ。

 謎のロックが解除されたらしい。

 視界は暗転し、スモークが焚かれた。


「何か……聞こえて来たぞ?」

 シンセサイザーの軽快なサウンド。

 それと重なるエンジン音。

 地響きと共に二つに割れる地面。

 鮮やかなレーザービームと共に地下からマシンが迫り上がって来た。

「うおお……!?」


 現れたのは青いママチャリだ。


 ……いや、知ってたけど。

 いくら何でも演出が過剰過ぎるだろ。

 エフェクトの無駄遣いだよ!


「さあ、乗って日高」

 志本が颯爽と自転車に乗り込んだ。

「志本が運転!?」

「一度乗ってみたかったんだ。早く!」

「マジかぁ……」

「私の運転じゃ不満なの?」

「いえ……。不満はありません」


 美人メイドと二人乗りなんて至福の極みだよ。

 問題はそこじゃ無いんだよなぁ。

 謎の力で全裸になったりしない?

 そのまま水鞠の家に突入してみろ。一生出禁だぞ?

「お手柔らかにお願いしま……ああああ!?」

 俺が荷台に腰を落とした瞬間、魔法自転車が唸りを上げた。

 荷台が沈み、前輪が浮き上がる。

「行くよ!」



 * * *



「あ……!?」

 俺は気を失っていたらしい。

 気付けば屋敷の近くを走っていた。

「日高! もう着くよ!」

 ブレーキが掛けられ、白煙が舞った。

 車体は大きく倒され、横滑りして行く。


 パキン、と鳴る謎の異音。

 それと同時に俺の足元にあった部品が飛んで行った。

「おおおおお!?」

 ビリビリと破ける俺の着物。

 いや、だから何でだよ!

「止まらないわ! ゴメン!」

「おいおい!」

 目の前には屋敷の門が迫っている。

 このままだと激突するぞ。


 

『囲え。無限壁牢(むげんへきろう)



 頭の中に魔法の言葉が響く。

 魔法陣の紋様が浮かび上がり、魔法自転車を包み込む。

 車体は急減速され、完全に停止した。

 巨大な板状の立体魔法陣によってママチャリが固定されている。

「この魔法は……」


「何かと思ったらキミか。日高誠」

 門の前にはギャルがいる。

 碧眼ミニスカ金髪ツインテール。

 壁ヤカンの中の人。


「あ、真壁先輩だ」

 志本の声に、真壁スズカはフフンと笑う。

「あーしの事はスズカちゃん、またはお姉様と呼んでいいし?」

 俺は咳払いをして、

「助けてくれてありがとうございます。お姉様」

「キミは言うなし! そう呼んでいいのは可愛い女の子だけだし!」

「了解です」

 そう言うキャラだったのかよこの人。

 設定盛り過ぎだろ。


『解除』

 真壁スズカが立体魔法陣に指差すと魔法は解除された。

 結晶の板は砕け散り、魔法自転車が着地する。

 俺はすぐに足元のパーツを確認した。

「何をしてるし?」

「さっき部品が飛んでったみたいで……」

「そんな事は気にすんなし。キミは早く服を着替えるし!」

「へいへい」

 ま、いっか。


 新しい服は真壁スズカが用意してくれた。

 花柄ピンクのスウェット上下……。

 完全に嫌がらせだろ、これ。

 真壁スズカに連れられて、美人メイドと部屋着姿の俺が門を潜る。

 好きな女の子の家に入る格好としては最悪だ。


「凄いお屋敷……お城みたい」

 志本が溜息混じりに呟いた。

 確かに、屋敷のデカさは俺が想像していた以上だった。

 何せ、前に来た時は嵐の夜だ。

 その時は建物の全体像が把握出来ていなかった。


 玄関には執事らしき人物が頭を下げている。

 背の高い白髪の老人だ。

 ギザギザの特徴ある刈り込みの髪型。

 年齢はかなり上の様に見えるが、鍛えられた体格をしている。

 おそらくこの人も魔法使いだ。

 熟練者のオーラが半端無い。


「ナルセ。二人の案内よろー」

「かしこまりました。ではこちらへ」

 真壁スズカとはそこで別れ、執事に付いて行く。

 広い玄関を通り、何処までも続く長い廊下を進む。

 通った事のある通路だ。

 豪華な照明が付けられ、印象は前と全く違う。


「…………!?」

 視界がグラリと傾く。

 次の瞬間、何故か俺は床に這い蹲っていた。

「日高!?」

「な……!?」

 何が起きているんだ? うつ伏せのまま動けねぇ……。

 地面と身体が強力な磁石でくっついているみたいだ。


 俺の視界には床と執事の黒い靴が見える。

「これは驚いた。全く魔法を感知出来ていない」

 執事の声だ。

 まさか、この人が魔法で俺に攻撃して来たのか……?

 何でだよ。チクショー!

「立ちなさい。その位は出来るでしょう?」

 いや、無理だ。

 床から身体が離れない。


『解除』

 執事のその一言で俺の身体が軽くなり、動ける様になった。

「日高! 大丈夫!?」

「大丈夫だ。怪我は無い」

 しかし、随分と乱暴な執事だな。

 これが水鞠家流のおもてなしって訳か?


 志本の手を借りて立ち上がる。

 そんな俺に、執事は失望の眼差しを向けた。

「引退して衰えた私の魔法ですら解除出来ないとは驚きました」

「う…………」

 何も言い返せねぇ……。

「本来なら従者以外は立ち入り出来ない場所です。お忘れ無き様」


 全く歓迎されていない様だ。

 志本と一緒なら大丈夫だろう、なんて俺の考えは完全に甘かった。

 これはタダでは済みそうに無いぞ。


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