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引力と猫の魔法使い【リメイク版】 第八章「ゲーム世界と魔法攻略」  作者: sawateru
第三章 目覚める魔法と未来を知る者

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第60話 日高誠と本当の未来

 田園地帯から住宅地に景色が変わる中、俺は一人走り続ける。

 地鳴りが起き、風は異常な音を立て暴れ始めた。

 そんな中、街行く人は変わらぬ様子でいる。

 魔法使い以外には、この異変を感知する事が出来ないらしい。



 魔法電子システムへのハッキングと志本紗英の不確定な未来。

 同時に引き起こされたこの現象には繋がりがあるのか?

 二人共助ける事が出来ないまま未来改変が起きる……。

 それは俺にとって破滅の未来と言っていい。

 そんな結末になってたまるか。絶対に回避してやる。



 東谷駅は静寂に包まれていた。

 朝の陽を浴びながら、路線バスがロータリーへと侵入して行く。

 俺はその後を追って足を止め、辺りを見渡した。


「居ない……!」

 いや、まだだ。反対側のロータリーかも知れない。

 息を整える間も無く走り出す。


 高架下を進み、改札口に来た所で足を止めた。

 スマホが着信している……?


 ……志本か?

 そうであって欲しいと願いながら、スマホを手に取った。

 表示された画面の文字に、絶望の底へと叩き落とされる。


 『***』


 震える手でタップし、通話を開始した。

 激しいノイズ音。

 その中で未来人の声が途切れ途切れに聞こえて来る。

「聞こえねーよ! 何て言ってるんだ?」

 

 願う様な叫びが通じたのか、ノイズがクリアになってゆく。

『……間に合わなかった様だ』

 未来人の声だ。

「志本は何処にいる?」

『…………』

 しばらくの沈黙が続く。


『志本紗英はここに居ない。君は選択を誤った』


「……!?」

 突如一帯が灰色に覆われる。

 人の姿は消え、俺一人を残して世界から切り取られた。

 これは……結界なのか?


『日高誠……』

 柱の陰から何かが現れた。

 全身を覆う白い魔法着。深いフードに不気味な仮面。

「魔法使い……」

 

 他の奴とはデザインが違う。

 魔法着に紋様が無い。

 仮面は半笑いした様に見える珍妙な造形だ。


 俺は電話を切ると、スマホを手にしたまま正面から対峙した。

「アンタが未来人か?」

『そうだ』

 電話の声そのものだ。本物で間違い無いだろう。


「志本は……」

『彼女は男の車に乗って行ってしまったよ。最悪な結末だ』

 仮面の目玉から赤色の光が滲む。

 

『全てはあの男の願い通りになった。

 志本紗英は従順な操り人形にされたのだ』


 志本がそんな事に?

「助ける方法は無いのか?」

『一つだけある』

 まだ間に合うのか?

「頼む。教えてくれ」


『それは……君と志本紗英の魔法運命の力を利用する事だ』

「魔法運命? いや、どうやってそんなものをどうやって……」


『キミが水鞠コトリを忘れ、志本紗英だけを受け入れればいい』

「…………?」

 今、何て言った? 水鞠コトリを忘れる?


『本来なら、キミと志本紗英は結ばれる運命だった。

 だが、君と水鞠コトリがその未来を改変したのだよ。

 その影響で世界のバランスが狂い出した』

「未来改変……」


 確かに俺は世界のルールに背いて水鞠コトリを引き寄せた。

 一度は世界に存在を否定された。

 だから俺は自力で魔法世界の扉を開いて水鞠と再会したんだ。


 今まで魔法の杭に異常は無かったはずだ。何で今更……。

 

 この状況は全部俺が原因なのか?

 俺の身勝手な理由で志本紗英の未来が変わって……。

 水鞠は一族当主の地位と従者達を失う事になるって言うのか?

 そんなのは絶対に許されない。

 許されるはずが無い。


 未来人はユラリと歩きながら俺との距離を詰める。

『志本紗英を選べ。

 そうすればキミと水鞠コトリとの魔法運命値は低下する。

 本来の未来に戻る事が出来るのだ』


 理屈は分かる。

 だがそれで本当に世界は変わるのか?

 ……それに、この違和感は何だ。


 考えろ。俺は何かを見落としている。

 今まで起きた事を思い出せ。



 志本紗英の異変。

 イケメンの幼馴染。

 ハッキングされた魔法電子システム。

 ファンクラブの暴走。

 未来を知る魔法使い。

 運命の選択。


 この現象を引き起こした人間は何かを願っているはずなんだ。

 それは何だ?

 何の為にこんな事を……。


 ……待てよ?

 頭の中で崩れていたパズルが組み上がる。

 深く覆われていた霧が晴れて行く。

 

 ……そうか。そう言う事かよ。

 答えは始めから出てるじゃねーか。

 この現象は全て一人の人間によって引き起こされたものだ。

 確信は無い。でも俺は、自分の直感を信じる。


 ……俺に力を貸してくれ。

 念じながら左手に魔力を集中させ、立体魔法陣を作り出した。

 掌を拡げると魔法のガラス玉が浮かび上がる。


『来い……! 電伝六蟹(でんでんろっかい)


 立体魔法陣が砕け散り、破片は電気の糸で結ばれてゆく。

 現れたのは電気を纏った六匹の蟹だ。

 それが俺の右手首を囲み、回転を開始。

 魔法電波が増幅され、スマホが通話可能になった。


 それを見た未来人が狼狽える。

『電話を……? そんな事をすれば……』

「記憶は消えねーよ。

 未来の情報なんてのは、全部お前の嘘だからな」

『な……!?』

「最初から全てお前の計画だったんだろ?」


 俺はスマホの画面をタップして電話を掛け、耳に当てた。

 相手は水鞠コトリじゃ無い。

 従者でも無い。

 電話の先に、この状況を作り出した本人がいる。

 未来を改変しようとした張本人だ。







「未来人。お前の正体は……志本紗英だ」





 視界は光に包まれた。

 世界を覆っていた灰色の壁が泡の様に消えていく。


 重なる改札口の通過音。

 そこを通る足音が、結界が解けた事を俺に伝えていた。


 東谷駅改札口前。

 俺の目の前には制服姿の少女が立っている。

 スマホを耳にあてたポーズのまま。

 そうだ……またあの時と同じだ。


 ──志本紗英。


 東谷高のアイドルは恥ずかしそうに微笑む。

「えへへ……。バレちゃった」

 そしてスマホを持つ腕を下ろした。


「バレたって、お前……」

 これだけの事をしておいてそのセリフかよ。

 志本紗英は「誰かの願い」で操作なんてされていなかった。


 ──操作されていたのは、俺の方だ。


「志本……何でこんな事をしたんだよ……」

「何でって、もう気付いているんでしょう?」


 志本の笑顔を合図に、駅の風景が変化する。

 周りに居た人間の動きが止まり、次々と消滅してゆく。

 気付けば世界には二人だけが残されていた。

 俺は今、幻の空間に囚われている。


 視界いっぱいに拡がる青空。

 太陽の日差しが降り注ぐ無限の大地。

 そこには黄色い花が一面に咲いている。


「向日葵……」


 その中で可憐に立つ志本紗英。

 向日葵に負けない程の、力強い笑顔に変わった。



「あなたの事が好きなのよ。日高誠くん」



 思わず見惚れてしまった。

 いや、圧倒されてしまった。

 

 彼女に告白されて断る男などいるのだろうか。

 少なくとも俺には想像出来ない。


「志本……」

 言葉を探していると、志本紗英は少し得意げな様子で微笑んだ。

「凄いでしょ。私、魔法使いになったんだよ。

 この向日葵を見せているのも私の魔法の力なんだよ」

 そう言って一枚のカードを見せて来た。


 ガラスの様に透き通ったそれは、魔法使いの証……。

「立体魔法陣……。そんなものまでどうやって?」


 すると志本が虚な目になり、

「日高にね。毎日手紙を書いていたの。

 たくさんたくさん書いては捨てて、また書いて……。

 どうやったらこの想いが日高に伝わるのか悩んでいた。

 そうしたらね。いつの間にか自然に発現していたのよ」


 何それ。普通に怖いんですけど!?


「それでね。日高が水鞠コトリとイチャイチャし出してね。

 何か変だなって気付いたのよ。何かがおかしいって」


 いやいや、おかしいのはそっちだ。言い方が怖い!


「初めから水鞠コトリが『普通』じゃ無いのは理解出来た。

 だから徹底的に彼女の事を調べたの」

「調べた? 調べた……って、どうやって……?」

「スマホで」

「スマホで!?」


 お手軽だな。そんなので魔法使いについて調べられるのかよ。

 いや、そんな訳無いだろ!


「そうしたら『水鞠家の魔法電子システム』に辿り着いた。

 そこから沢山の情報を手に入れた。

 魔法使いの事、魔法世界の事、結晶体の事、水鞠一族の事。

 日高の連絡先も」


 連絡先……俺と交換する前に知ってたのかよ。

 いや、そこに驚いている場合じゃ無かった。

「手に入れた……って、セキュリティとかどうなってんだ!?」

「普通に入れたよ」


 おかしいだろ。絶対おかしい!


「詳しく調べてみたら分かった。

 私は魔法でそれを可能にする力を持っているって事が」

「ハッキング能力……」

 そのスキルだけじゃ無い。

 結界やら幻覚やら、能力のバーゲンセールじゃねーか。


 ……ようやく分かった。

 志本紗英は普通の魔法使いじゃない。

 俺と水鞠コトリが引き合う事で生み出された存在なんだ。

 世界のバランスを保つ為、必然的に。


 俺と最高の魔法運命値を持つ、最強の「カウンター」として。


 志本紗英から笑顔が消える。

「最初はね、ただ知りたかったの。

 魔法の事、水鞠コトリの事を。

 でも知れば知る程、欲が出て来ちゃって……私……こんな事まで……」


「志本……!?」


「もう、取り返しがつかない所まで来ちゃったよ……」

 志本の身体がガクンと崩れ落ちる。

「志本……!?」

 俺は素早く駆け寄り、身体を抱き支えた。

 

 危ねぇ。

 間一髪間に合った。これは現実なのか? それとも幻覚……!?

 スマホが振動している。着信している様だ。

 誰だ……? 水鞠か?


「非通知……!」

 志本を抱えたまま通話に出る。


『日高誠! 聞こえるし? 大変だし!』

 真壁スズカの声だ。

「聞こえます! 何かありましたか?」

『ハッカーの正体が分かったし。驚くなし? 志本紗英だったし!』

「それなら今本人から聞きました。志本はここに居ます!」


『え────!?』

「でも突然倒れて……意識を失っている様です……どうすれば?」

『落ち着くし! 今からアバターをそちらへ向かわすし!』

「お願いします!」


 良かった。どうにかなりそうだぞ。

 通話を切ろうと耳から離す。

 その直後、スピーカーから微かに声が聞こえて来た。


『……! ……!』

 叫び声?

 慌ててスマホを耳に戻す。

「どうしました?」

『いや、まさか……!? そんな……!?』

「もしもし?」

 

 通話が……切断されている。

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