表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第三章 目覚める魔法と未来を知る者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/171

第59話 日高誠とファンファーレ

「断る……?」

 黒の魔法使いは「ホワイ?」とジェスチャーを取り、

「残念ながら水鞠家に未来はありません。

 水鞠七兵衛の『魔法エンジン』は最早時代遅れの代物。

 加えて人員不足による魔法エラー修正の遅れ。

 水鞠家の『杭』は相当傾いているのでは?」


「余計な……お世話です!」

 手にしている弓型の立体魔法陣を振り上げ、直接攻撃を試みる。

 だがそれは鷹の脚で簡単に受け止められてしまった。


「それとも……ようやく回って来たエースナンバーの座に執着が?

 消え行く一族の看板など、何の価値があると言うのです?」

「……そのお喋りな口を黙らせます」


 その直後、弓型の立体魔法陣が無数の光の球に変化した。

 それは赤く光り輝き、溶ける様に消滅してゆく。

 武器を失った弓の魔法使いは完全に丸腰状態だ。


 魔力切れ……?

 違う。自分から立体魔法陣を解除したのか……?


「一体何を……!?」

 予想外の行動だったのだろう。黒い魔法使いが狼狽える。

 その一瞬の隙を見逃さない。

 弓の魔法使いは残像を纏いながら懐に飛び込む。

 そして手を伸ばし、鷹の首を掴み取った。

 迸る稲妻。同時に強烈な衝撃波が放たれた。


 魔法……じゃない。これは何だ?

 掴まれた魔法の鷹はメキメキと音を立てながら縮小してゆく。

 それを目にした黒い魔法使いが驚嘆の声を上げた。

「立体魔法陣に還元……!? 馬鹿な!」


 「パシン」という乾いた音と共に、立体魔法陣が粉々に砕け散った。

 その破片は巻き起こる爆風によって吹き飛ばされ、消滅してゆく。

「素手で破壊を……!? まさかその技は……」

 黒い魔法使いは激しい動揺を見せ、一歩、二歩と後退する。


 形勢は完全に逆転した様だ。

 弓の魔法使いはゆっくりと歩み寄り、男との距離を縮める。

「私が水鞠家のトップになれたのは、

 多くの実力者が水鞠家を離脱したから……ではありません。

 その前から私は『実力で』エースナンバーを奪っています」


 拳を振り上げる弓の魔法使い。

 それに対し、黒の魔法使いは両手を挙げて降参のポーズを取る。

「フフ……。完全に私の負けで……ゲフゥ────!?」


 容赦無い一撃が顔面にクリーンヒット。

 黒の魔法使いは錐揉み回転をしながらゴミの様に地面を転がってゆく。


 鳴り響くファンファーレ。

 上空には「勝負あり」の巨大な文字が浮かび上がった。

 演出が安っぽいな! 雑過ぎる!

 そんな中、弓の魔法使いは一息吐いて魔法着の乱れを直す。


「私の勝利です」

「今、相手が降参した後にパンチ喰らわしてましたよね!?」

「腹が立ったので、つい」

「いいんだそれで!?」

 ボクシングだったら反則負けですけど!? 

 ルールを守るのが魔法使いじゃねーのかよ!


 杭による結界は解かれ、校門前はいつもの風景になっていた。

 戦闘によって割れていたアスファルトも元の状態に戻っている。

 流れ込む風が、校舎を囲む木々を緩やかに揺らす。


「ぐ……ぐふう……」

 黒の魔法使いは産まれたての小鹿の様に足を震わせ、立ち上がる。

 そして、もう一度お手上げのポーズを取った。

「こ……降参です。全く勝てる気がしません。

 貴方はどれ程の罪深い願いを叶え、

 その代償を背負って来たと言うのですか?」


「余計な詮索はしない様に。全ては後に分かる事です」

 弓の魔法使いの言葉に、男は頭を下げて一礼する。

「かしこまりました。では私は新しい主人に挨拶して参ります。

 これまでの水鞠家への非礼……お許し下さい。では」

 そう言うと黒い魔法着を翻し、校舎に向かい走り去って行った。

 その格好で校舎へ入るのかよ。ガッツあるな。


「お待たせしました。日高誠」

 弓の魔法使いが振り返る。

「ちょ、大丈夫ですか?」

 魔法着がボロボロのままだ。

 決闘のダメージは元には戻らないらしい。

「回復に時間が掛かっているだけです。

 予想以上の実力者だったので、本気を出すしかありませんでした」


「あのオカメインコ野郎……本当に信用出来るんですか?」

 性格に難がありそうだぞ?

「魔法局に関われる人物です。素性に問題は無いでしょう。

 飛行出来るアバターに特殊結界。

 それに魔法ハッカーとしての能力も備えた優秀な人材です」


「魔法ハッカー?」

 またダサいネーミングが出て来たぞ?

「魔法電子システムの異常には不可解な点が多かったのです。

 外部からの侵入者、または魔法覚醒者による攻撃の疑いがあった。

 今回の私の任務は、それを検証し排除する事でした」

「その犯人が魔法局の契約魔法士だった訳ですね」


『何の話でしょうか?』

 突然の声に驚いた。

 振り返ると、オカメインコが首を傾げていた。

 どうやら科学室へ向かったのは本体だけだった様だ。

 魔法アバターはここに残していたらしい。


 体長三十センチ越えの、アバターらしく誇張されたデザイン。

 そんなオカメインコが目をパチクリさせている。

『ハッキング……それは私ではありませんよ』

「はい?」

 今なんて言った?


 すると弓の魔法使いは落ち着いた様子で、

「魔法局との契約解除で、記憶が消えているだけです」

「そう言う事かよ。紛らわしいな!」


 オカメインコのトサカがピーンと立つ。

『いえいえ。契約により制限されていたのは組織情報のみです。

 依頼内容については制限されていません』


「え?」

『私が依頼された仕事は、秘密裏に日高誠の魔法解析を妨害する事。

 ……だけです。

 そもそも私、魔法ハッキングスキルは持ち合わせておりません』

『……嘘は吐いていない様ですね』

 弓犬が目を細めた。


 ちょっと待て。

「じゃあ、ハッキングしていたのは誰なんだ?」


 全員の沈黙が続く。

 お互いに視線を交わし合い、事の重大さに気が付いた。

「あ…………!」


 突然の地鳴りに身体が揺さぶられた。

 それと同時に異様な警報音が鳴り響く。

『何事です!?』

 オカメインコが鷹の姿に変化し、戦闘態勢になって大きく羽を拡げる。


「緊急警報……!」


 弓の魔法使いが胸元から二つ折りの携帯電話を取り出した。

 どうやらそのガラケーが警報音の発信源だった様だ。


 機器をパカリと開き、耳に当てる。

 落ち着いた様子で受け答えした後、電話を切った。


「水鞠からですか?」

「はい。現在、魔法電子システムが激しい攻撃を受けている様です」


「ハッキング……!?」

「最深部の機密情報が狙われています。

 流出した場合、未来改変を引き起こす可能性があります」


 それを聞いた鷹のアバターが羽で口を覆った。

『そ、そんな事になったら一族解散は免れない!

 転職したと思ったら、いきなり無職に!? はわわわ……!』


「解散……!?」

 嘘だろ? 水鞠はどうなるんだ?

『私はコトリ様のフォローに向かいます』

 弓犬は鷹の背中に飛び乗った。

『鳥。このまま私を乗せて科学室へ飛びなさい』

『御意』

 弓犬を乗せた青い鷹は風を纏いながら飛び立った。


 それを見届けると、本体である弓の魔法使いが俺に視線を向けた。

『貴方は今後、無意識下での能力発動を禁じます。

 これ以上のフォローは出来ません』

「いや、いきなりそんな事を言われても……」


 困惑気味に返していたが、弓の魔法使いは何故か納得した様に頷く。

「な、何です…………?」

「これで勝手に像換獣が召喚される事は無くなりました」

「……はい?」


 まるで自分が会話から除外されているかの様な感覚だ。

「いや、話が全く分からないですけど。何が何だか……」

「封印みたいなものです。気になさらずに」

「封印……ですか」

 何にせよ、これからは「お助けキャラ」は使えなくなった訳だ。

 それはそれで心細い。


「私は杭の監視に向かいます。

 貴方はここに残り、魔法現象の監視をお願いします」

 そう言って弓の魔法使いは停車していた自転車に乗り込んだ。

 白煙が巻き起こり、エンジン音が鳴り響く。

 轟く爆音。走り出す魔法自転車。

 長閑な田園風景の中を、怪しい魔法着の人物が駆け抜けて行く。


 ……相変わらずシュールな絵面だな。

 いや、落ち着いている場合じゃない。急がないと。

 一人残された俺は、校舎へと足を向けた。



『志本紗英から目を離すな』



 何故かそこで未来人のメッセージが頭を過った。

 ……何だこの胸騒ぎは。

 そうだスマホ。メッセージが何か来てないか?

 立ち止まり、慌てて尻ポケットからスマホを取り出した。

 画面を確認する。


 メッセージが三件。

 五分前に受信……!? 未来人からだ。


『未来はまだ修正出来ていない』


『すぐに東谷駅に向かえ。志本紗英を引き止めろ』


 何だって……!?


『男の乗る車に、志本紗英を乗せるな』


 車……!? 男って、あのイケメン幼馴染の事かよ。


 嘘だろ……。

 何で志本が東谷駅に?

 さっきは保健室に行くって言っていただろ。

 ……考えられる理由は体調不良による早退か。

 いくら何でも急展開過ぎる。何で場所が東谷駅なんだよ。


 ……待てよ?

 昨日出会うはずだった二人の未来が、この時間にズレたのか?

 強力な運命が二人を引き合わせたのなら、あり得る話だ。

 現に俺と志本の間にも、無理矢理な展開が起きていた。


 志本……!

 震える指を動かし、画面を操作して通話アプリを起動させた。

 ……ダメだ。繋がらない!

 ここから東谷駅まで走って七分程。間に合うのか?


 水鞠に連絡は出来ない。

 誰かに話そうとした瞬間に俺は記憶を失う。

 そうなったら志本を助けられない。


 頼む! 間に合ってくれ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ