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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第三章 目覚める魔法と未来を知る者

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第43話 日高誠と謎のダブルデート

 日曜日のショッピングモール。

 俺は超混雑状態のフードコートに足を踏み入れ、溜息を吐く。

 長期戦を覚悟していたのだが、今日の俺は運が良かったらしい。

 すぐさま端っこの特等席をゲット。

 一人右手を高々と挙げた。


 ……早く気付いてくれ。

 別に好きでこんなポーズをしている訳では無い。

 遠くの柱の影に立つ少女を呼ぶ為だ。

 そいつは俺を発見すると、猫の様な瞳を光らせた。

 そして重い足取りで異常な人混みの中を縫う様にやって来る。


「何でこんなに混んでるのさ」

 そう吐き捨てる様に言い、俺の向かいの席に座った。

「言ったろ。ショッピングモールは日曜に来るもんじゃ無いって」

「グ、グムム……」

 超人がソコソコのダメージを受けた時の様な呻き声を上げる。

 いつもの水鞠(みずまり)コトリのリアクションだ。


 二つに束ねられた真っ直ぐな髪。

 クリーム色のスウェットパーカーにジーンズのハーフパンツ。

 白のスニーカーというスタイル。

 私服姿は初めて見たが……。

 うん、可愛い。可愛いぞ水鞠!

 

 そして俺は白のシャツに紺のジャケット。

 ジーパンに紫色のスニーカーのいつものやつだ。

 これがデートであれば、俺ももう少し服装に気を遣っただろう。

 だがしかし。

 そんな一大イベントなどそう起こるはずが無く……。


「おお、待たせたな」

 山盛りのドーナツと飲み物が乗ったトレーを持つ男が現れる。

 緑のオシャレジャージ姿の吉田玲二(よしだれいじ)だ。

 吉田は細く鋭い目を丸くさせつつ、トレーをテーブルに置いた。

「本当に全部タダになったぞ。どんな魔法を使ったんだ?」

 俺の隣に座り、水鞠に視線を向けた。


「魔法は使ってないよ。アタシの従者の店なんだよ」

「じゅ、じゅ? 何だ?」

「水鞠の親戚の店らしいぞ」

 そこで俺はすかさずフォローを入れる。

 すると吉田がドーナツ屋のロゴを見て、

「へえ。ミズマルドーナツ……聞かない名前だな」

「俺もだよ」


 ここを何度か利用していたが、この店の存在に気付かなかった。

 割と盛況なのに話題にならないのは不自然だ。

 これは魔法が関係していると見ていいだろう。

 ……そんな事よりも水鞠。部外者に簡単に身内の話をするなよ。

 何で俺が気を使わなくてはならんのだ。


「お、お、お待たせ……」

 そこに黒いワンピースを着た少女が現れた。

 いつもと違う長い髪を一つに束ねたスタイル。

 同じクラスの三ノ宮菜々子(さんのみやななこ)だ。


「おお、俺も今席に着いた所だぞ」

 吉田が三ノ宮を奥に通す為に立ち上がる。

「良かった。トイレ激混み……」

 そう言いながら水鞠の隣の席に座った。


 水鞠コトリ。吉田玲二。三ノ宮菜々子。

 この三人が俺と同じテーブルに着いている。

 そう。まさに謎のダブルデート状態だ。


 何でこんな事になったんだよ……。

 ドーナツを一つ手に取り、二度目の溜息を吐く。

 そこで俺は、二日前の出来事を思い返してみた。



 * * *



 雨が降る放課後の科学室。

 いつもの様に九台並ぶ実験用の机の中央に俺達は居た。

 俺は魔法トレーニングの「魔法お手玉」を練習中。

 水鞠は当主としての仕事に追われている。

 ノートパソコンを前にして、キーを打ち続けていた。


 科学部での俺達は、ずっとこんな感じだ。

 試験合格から一ヶ月が経過したが、未だ仮入部のまま。

 なので、俺は魔法トレーニングしかやる事が無い。

 いくら何でも退屈過ぎる。そろそろ何か進展が欲しい……。

 そう思っていた。


「日高。次の日曜予定ある?」

 水鞠が手を止め、猫の様な瞳を向ける。

「え!?」

 柔らかな雨音が、室内の静寂を満たしてゆく。


 日曜……。

 その日は吉田との約束がある。

 友達との大切な約束だ。

 ……が、無かった事にする。

 今決めた! その約束はキャンセルだ。

 このチャンスを逃す訳には行かない。


 断れば次のお誘いは無いかも知れん。

 許せ吉田。お前なら分かってくれるはずだ。

 俺は一旦咳払いをしてから自分を落ち着かせた。


「その日なら暇だぞ」

「アンタ、吉田玲二と約束があるでしょ」

「何で知ってるの!?」

 だったらわざわざ訊いて来るなよ。


 俺は手に持っていたお手玉をテーブルに並べ、デコピンで叩いた。

「期末テストも終わったし、買い物に行こうって話になってな」

「何処に?」

「谷真のモールだが」

「じゃあ、アタシも行くよ」


「来るの!?」

「何? アタシが一緒じゃ嫌な訳?」

「俺は嫌じゃ無いけど……。水鞠は吉田と仲良かったっけ?」

「良い訳ないでしょ」

「何で偉そうなんだよ」


 流石の吉田でも気を使うだろ。

 ろくに話した事の無い他クラスの女子が買い物に参加だぞ?

 俺がその立場ならしんどくて帰るわ。

「別の日じゃ駄目か? 平日の方がモールも空いてるぞ」

 それだけじゃ無い。二人きりになれる!


「それだと報告書の締め切りに間に合わないんだよ」

「報告書? ……って何だ?」

「日高の魔法入部試験の報告書」

「初めて聞いたぞ。誰に出すんだ? そんなもの」

「魔法局」

「ま……?」

 ……いきなり新しい設定か。


 魔法局。

 魔法使いを束ねる組織って所だろう。

 管理地の杭を護る「当主」が複数人いるのは分かっていた。

 ならば「そういう組織」があるのも想像がつく。


 水鞠はノートパソコンをパタンと閉じる。

 それを人差し指でトントンと叩きながら、

「実は日高の魔法を解析する為に必要な魔法具が足りないんだよ」

「魔法具? それが店に売っているのか?」

「そうだよ」

 相変わらず訳の分からん世界だな。

「なら従者に言って買って来て貰えばいいだろ」

「アタシと日高が一緒に行かないと買えないんだ」

「……はい?」


 ああ。はいはい。……そういう事か。

 何かのルールが関係しているって事だな。

 そしてワザワザ吉田と一緒に行く理由。

 それはすぐに思い当たった。

 

 今現在、科学室には俺と水鞠コトリの二人しかいない。

 それはあくまで表向きは、だ。

 実際は違う。

 ここには「もう一人」居るのだ。


 今、科学室の隅にはゴルフバッグが置かれている。

 科学室にゴルフバッグ。明らかにおかしいだろ。

 昨日はその場所に花瓶が置かれていた。

 その前はフライパン。

 更にその前はドライヤー。

 入部試験が終わってからずっと何かが置いてある。


 あれは従者の魔法アバターだ。

 科学室の俺と水鞠は、常に従者から監視されている。

 絶対に二人だけにさせない、という強い意志の現れだ。

 こんな状態で二人だけの外出なんて許される訳が無い。

 そこで吉田の登場だ。


「いや、だったら従者の誰かが付き添えばいいだろ」

 すると水鞠は固く目を閉じ、歯を食いしばる。

「アタシが強く断った」

「何でだよ」

 なるべく吉田を魔法案件に巻き込みたく無いのだが。

 何か理由があるのか?


「せっかく出掛けるのに従者と一緒は嫌! 疲れるし」

「またストレートな理由だな……」

「もう従者全員と契約済。半径五キロ以内の侵入を禁止した」

「その条件が吉田の同伴かよ」

「そうだよ」


 確かに金髪ギャルみたいなキャラが一緒に居たら落ち着かん。

 どうせ他の従者もネジの外れた様なキャラだろうしな。


 そう言う話なら仕方ない。

「了解。じゃあ谷真駅の東口、一時に来てくれ」

「わ、分かった」

「そこで偶然出会った事にしよう。自然な感じで頼む」

「グ、グムゥ……。日高に全部任せるわ」



 * * *



 ……そして今に至る。

 俺はドーナッツをひとかじりし、アイスティーに口をつけた。

 メチャクチャ美味いなドーナツ。

 吉田も三ノ宮も笑顔が自然と溢れている。

 どうなる事かと思ったが、いい休日になりそうだ。


「ん…………?」

 ちょっと待て。おかしくないか?

 突如、違和感の塊が押し寄せた。

 同時に、恐怖で背筋に汗が伝う。身体の震えが止まらない。


 おわかり頂けただろうか……。

 どデカい謎がそこにある事を。


 何で三ノ宮菜々子がここに居るんだよ!

 全く話に出て来て来なかったよな。

 え? 何? いつから居た?


 よくよく思い返すと、谷真駅には既に居た気がする。

 あまりに自然な感じで違和感に気付けなかった。

 どうなってるんだよ、これ……。


 吉田は三ノ宮の電撃参加に対してノータッチだ。

 俺が三ノ宮を呼んだと思っていそうだな。

 いや、呼んでないからな!

 

 三ノ宮は魔力を感知出来る特殊人間だぞ?

 このミッションにだけは参加させたら駄目なやつだろ。

 それなのに、何で水鞠までスルーしてるの?


 心配になった俺は、水鞠に視線を向ける。

 だが水鞠の様子は変わらない。

 三つ目のドーナツを手にモグモグと口を動かしている。


 メッチャいい笑顔になってる……。

 ま、この感じなら何とかなるんだろ。

 ……たぶん。

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