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引力と猫の魔法使い 【リメイク版】  作者: sawateru
第二章 魔法試験と七不思議

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第40話 日高誠と本物の魔法使い

 部室は結界の壁に囲まれ、十倍以上の広さに改変された。

 本棚は重なり合い、中身が盛大にブチ撒かれた状態だ。

 無数の本が宙に浮く、なかなかの異次元空間になっている。


「やっと正体のお出ましかよ」

 対峙していた柳沢の姿は、人間のものでは無くなっていた。

 赤く濁るマネキン人形の姿。第一段階の結晶体だ。


 やれる……!

 面倒な能力が無いのなら、俺でも何とかなるかも知れない。

 電伝六蟹(でんでんろっかい)はまだ消えていないんだ。

 コイツを上手く使えばワンチャンある。


 そう。

 今の俺は右手首に六匹の蟹を浮遊させている謎の状態だ。

 側から俺を見て魔法使いだと認識出来る奴は居ないだろう。


 蟹だぞ蟹! もっと他にあっただろ!

 犬とか鷹とか猿とかシーサーとかさ……。

 俺が映画で見た魔法使いは杖を振って呪文を唱えていたぞ?

 全然ビジュアルが違うじゃねーか。

 レンタル料金八百八十円返してくれ!


 でも、全てが無駄になった訳じゃ無い。

 魔法トレーニングの成果は確実にあった。

 身体中を血液の様に巡る「魔力」の流れをより鮮明に感じる。


 だからだろう。今の俺には理解出来る。

 像換獣は魔力を燃料にして動く機械みたいなものだ。

 魔力がゼロになれば像換獣は停止。

 そうなる前に戦いを終わらせるしかない。

 俺は右手を強く握り締め、魔力を集中させる。


『キキキ……キキキキキキ……』

 結晶体が威嚇する様に全身を震わせる。

 第一段階の結晶体は物理攻撃をしない。

 だが攻撃を喰らえば精神エネルギーを根こそぎ持って行かれる。

 そうなれば気絶からの時間切れゲームオーバーだ。


 だったら、相手の攻撃が届く前に先手を打つ!

 今の俺に恐れは無い。結晶体に向かって一直線に走り出した。

 そして至近距離まで来ると、素早く右手を突き出す。

 

電伝六蟹(でんでんろっかい)!』


 命令は不要だった。

 名前を呼ぶだけで魔力が装填され電撃が放たれる。


『キギギギキ……ギキキ……』

「痛っ! イテテテテテ」


 俺も痛えよチクショー!

 バチバチと発生する派手なエフェクト。

 その割には全く効いていなさそうだ。

 こんな静電気に毛が生えた様な攻撃ではノーダメージか。


「そんな事は……予想してたんだよ!」

 だから奥の手を考えていた。

 

 俺が仮契約した時から電伝六蟹は故障していた。

 初めから一匹だけが違う方向を向いている状態だった。

 多分それは魔法使いに故障箇所を伝える為のメッセージだ。


「だったら……!」

 手を伸ばし、右手に纏っている蟹の一匹を掴む。

 それをそのまま強引に横へ引き倒した。


 するとどうだ。噛み合わない歯車の様な異音が鳴り出した。

 電伝六蟹の電気の輪が激しく乱れ始める。


 いいぞ! 俺が期待していた反応だ。

 そう。こうやって敢えて自分で故障箇所を「二つ」にしたら……。

 電撃の威力はどうなる?

 俺なりに考えた答えはこれだ。


「二倍になる……だ!」



 ──プスン。

 ガス欠した音と共に消える電撃。

 停止する魔法のエンジン。

 静まり返る結界内。

 電伝六蟹はピクリとも動かない。


 え……!? あれぇ……?

 これって、もしかして……。


 嘘だろ……。完全に壊れた……?

 確かに賭けではあったけど、普通は上手く行く流れだろ。

 ゆで理論が通用する優しい世界じゃなかったのかよ!


『キキキ……キキキ……』

 ボディに浮かぶ魔法陣の紋様が輝いた。

 結界内に浮遊するハードカバーの本が一斉に動き出す。

 

 ヤバい! 攻撃が来る!?

 次の瞬間、俺の右手から聞いた事の無い怪しい音が発生した。

「何だ!?」

 電伝六蟹が右手を中心にギュルギュルと高速回転を始めている。

 まるで電気ノコギリだ。


 予想外の動きを始めやがった。

「あ、でもこれって……」

 武器として使えるんじゃね?

 相手の動きは鈍い。……やれる!

 俺は右腕を振り回し、結晶体に攻撃を試みる。

 「ブォン」という謎の効果音。

 その大振りのフックは見事に空振った。


 いや、やれねーよ!

 俺は喧嘩や格闘技をやって来た人間とは違うんだ。

 素人の攻撃が簡単に当たる訳が無い。


 ……時間は残り僅か。

 どうにかして結晶体を破壊しないと……!


「あれ……?」

 ガクリと膝を着く。

 意識が朦朧となり、力が入らない。

 ヤバい。魔力切れってやつか……!?

 違う。まさか……。

 左肩からの違和感。

 視線を向けると、そこから謎の煙が上がっていた。


 エネルギーが漏れ出している!?

「嘘だろ……。いつの間に?」

 さっきの攻撃の時か?

 カウンターを喰らっていたのかよ……。


『キキキキキキキキキキキキ……』


 結晶体が金属音を鳴らした。

 それに呼応する様に俺の全身が鉛の様に重くなって行く。


 力が入らない……!

 くそお! 動け! 動いてくれ!

 このままじゃ俺は失格になる。


「痛っ!?」

 電撃が流れて込んで来た。

 俺は何もして無い。何が起きているんだ?

 電伝六蟹の回転は完全に停止している。

 じゃあこの電撃は何処から……?


 電伝六蟹の様子がおかしい。チカチカと点滅を始めている。

 ええ!? 嫌な予感しかしねーよ!


 点滅の速度が速くなって行く。

 まるで何かのカウントダウンだ。これってもしかして……。

「爆発……!?」


 激しい雷光。

 そして電伝六蟹から強力な電撃が放たれた。

 それは巨大な雷の渦となって瞬く間に一帯を包み込む。


「イテテテテテテ!」

 痛いって!

 いや、さっきからよくこれで済んでるよ。

 普通なら死んでるだろ。

 いや絶対に死ぬ!

 まさかの自爆で終了とか、最悪だろ。


『キギギギキ……ギギギキ……キ、キ』


 何だ?

 結晶体の全身に亀裂が走っている。

 電撃が効いてるのか!? どんだけ強力なんだよ!

 ……ならば我慢比べだ。

 先に俺の意識がぶっ飛ぶか、お前が破壊されるかのな!


電伝六蟹(でんでんろっかい)!!』

 ……頼む。俺に力を貸してくれ。

 

 負けられっかよ、ちくしょー!

 このまま水鞠に会えずに退場してたまるか! 

 俺を救ってくれた吉田に何も返せていない。

 まだこの世界でやりたい事が残っているんだよ!


「俺は、絶対に……勝つ!」


『キキキ……キキキキキキ』

 結晶体の崩壊が始まった。

 その破片は強力な電撃により、空中で粉々に砕かれ消滅して行く。

 あと少しだ。早く消えてくれ!

 もうこれ以上は俺も限界だ!


 ……意識が。


 ……遠退く。





『もう、抵抗をやめたらどうだ? 日高君』


 一面真っ白の世界だ。

 そこに柳沢と俺の二人だけが存在している。

 こいつは結晶体なのか?

 いや、少し違う。これは幻だ。


 何故か理解出来る。

 目の前に立っているのは、結晶体に宿っていた思念……。

 いや、怨念みたいなものか?

 残された力を使って最後の攻撃をしようってつもりかよ。

 どんだけ俺が憎いんだよこの人。


 柳沢は指で眼鏡を押し上げる。

『試験に合格した所で、君は本物の魔法使いにはなれないよ』

「そんなの、まだ分からないだろ」

『分かるとも。では、君が魔法使いを目指す理由とは何だ?』

「それは……」


 水鞠コトリの側にいたいからだ。

 ただ、それだけだ。


『言えない。つまり君には素質が無い』

「どういう意味だよ」

 本当に訳が分からん。


『魔法使いとは、崩壊した未来を改変し世界を救う特別な存在だ』

「……知ってます」

『いや。君は全く分かっていない』


 柳沢は苦笑し、話を続ける。

『君は使命の為に命を捧げるつもりはあるのかい?』

「命を……」

 正直言って、そんな考えは微塵も無い。

『出来ないだろう? だから君は偽物なのさ』


 世界を救う使命。その為の素質。

 なるほどな。

 俺が出会った魔法使い達はキャラが無駄に濃かった。

 それが魔法使いの素質だと言われれば納得出来る部分もある。


 マトモな人格じゃ魔法使いは務まらない。

 そう言う意味でも俺には素質が無い。


 柳沢は怒りの表情で俺を睨む。

『本物の僕が失格したのに、偽物の君を合格させる訳には行かない』

「それが……俺を妨害していた理由か」

『そうさ。偽物は失格すべきなんだよ!』

 叫びは凶器となり、俺の精神に深く突き刺さる。

 右手を握り締め、負のエネルギーに耐え続ける。

 こんなモノに……負けてられっかよ。

 

「確かに俺は世界を救う事が出来ないかも知れない」

 でも、その手助けがしたい。

 それを望む水鞠コトリの側に居たい。

「俺は……絶対に魔法使いになる。そう決めたんだ」

 

 響く破壊音。

 激しく揺れる白い世界。

 その状況に狼狽える柳沢。

『何でだよ……!』

 顔面はグシャグシャに崩壊してゆく。

『何でだよ……! 何で……。ナンデ……ナン……』

 そして金属音が混ざった奇怪な声を上げ、頭を抱えた。


 白い世界が……消える。


 次の瞬間。俺の足元が崩壊し、闇の空間が現れた。

「ちょ、え…………!?」

 俺の身体は闇に投げ出され、そのままどこまでも落下してゆく。






 スマホの振動で目が覚めた。


 気付くと俺は、文芸部の部室の扉の前に立っていた。

 部室の中からは「ガハハ」と岩田の豪快な笑い声が漏れている。

 他にも何人か居るみたいだ。清水と柳沢だろうか。

 耳障りな金属音は聞こえない。

 結界が消えた? って事は……。


「俺は……結晶体に勝てたのか?」


 そうだ。スマホを見ればいい。

 何かが表示されているかも知れない。

 俺は尻ポケットからスマホを引き抜き、画面を確認する。


 メッセージが一件。

 水鞠コトリからだ。


『化学室に来て』

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